「起業したい人を応援するお仕事」が世の中には存在するという話

「起業しなさい」という圧を、感じませんか。

PI諸兄におかれましては10兆円ファンドやら卓越研究大学やらをお上がちらつかせつつ、なんとかして大学から起業させようとしていることは肌に感じていることでしょう。

若手の皆様におかれましてはJST 次世代(SPRING)のプログラムの中に起業家教育が入っていたりなんてお話も聞きます。

日本経済の柱の一つにディープテックの起業があるのでトップダウンで起業しろという圧がかかっているのはしょうがないんですが、「そんなこと言われてもどうすりゃいいのさ」っていうのが大部分の人の感想じゃないでしょうか。

参考:古のアスキーアート

ということで、大学院生や若手研究者の起業支援を生業とするBeyond Next Ventures(BNV)津田さんにお話を聞いてみました。

tayo 熊谷洋平

本記事のインタビュアー。2018年、東京大学大気海洋研究所にて博士(環境学)を取得。博士号取得後はITベンチャー、国研のポスドクを経て起業。BNVには出資してもらっているのでこの記事に公平で中立的な視点を求めないでください。

BNV 津田将志さん

プロフィールは本文にざっくり出てきます。熊谷とは数年来の付き合いかつ本記事のインタビュイーかつ広告主。理系オタクっぽいキャラクターなのにめっちゃビジネスできるので尊敬しています。

起業しようと考えたきっかけは?

大学院生の頃からベンチャーと関わりがあった

本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いしようかな・・・?「学部卒でずっとコンサルやってました」みたいな人に起業しろといわれても説得力がないので笑

元々は、京都大学大学院の工学研究科で高分子の研究をしていました。 自分の先生がバイオベンチャーをしていて、当時は2社、累計で4社くらいを共同創業者の人とやっていました。 自分たち学生は実験をしながら、その傍らでベンチャーで使うような素材作りを手伝っていました。自分たちがそこに関わるのがすごく刺激的だなと思いました。

ただ、結果としてはうまくいかないことも多かったです。自分達が世の中を良くわかっていなかったのも大いにありますが、研究内容を実用化しようと思ってベンチャーをやっても難しいし大変、ということを身をもって感じました。

なるほど。では、就職活動の際はどのような道を考えたんですか?

就職しようと思った時に、たとえば研究開発とか、世の中の技術シーズをうまく使っていくということには興味がありました。一方で、 コンサルとか商社とか、メーカーさんを見てもあまりしっくりこなかったんですよね。

そこで、進路をどうしようと考えた時に、前職の医療系のスタートアップと出会いました。そこはちょうど、国立循環器病研究センターというところから導入した技術シーズを、自分たちの資本を使い、パッケージ化して売り出すということをやっていたんです。アカデミア発のものをビジネスにするというところが新鮮で興味を持ちました。

大学院時代にベンチャーの大変さを知って、それでもなおベンチャーに就職したんすね。気合いすね!

当時はそういった状況でしたが、文科省のアントレプレナー育成プログラムEDGEにも参加させて頂き、学ぶこともたくさんありました。ここの卒業生はいまも仲が良いですし、たくさん起業家も生まれています。 アメリカのボストンのバイオエコシステムなども勉強させていただいて。学部の2,3年生でアイデアベースでバンバン起業していたんですね、それでプロダクトもあって売り上げも出ていて。学問として極めた先にスタートアップへの道が開かれる、と思っていたので衝撃でした。

大学院を修了をする頃には、 日本では事業を立ち上げる機能みたいなものが国として不足していると感じていました。決して技術シーズが負けているというわけではなく、ただ会社としてやっていく、ベンチャーを生み出していくというところが国として弱いんだなと。

前職では何やってたんですか?

営業も研究開発も含め、何でもやってました笑 営業も飛び込みからテレアポからめちゃめちゃやってました。営業先の大学病院の顧客と一緒に共同研究したり、預かった検体を自分でアッセイしたり。その後2019年にBNVに入って、アカデミアの事業化支援の責任者をしています。

津田さん、全然営業っぽくない見た目なのに営業めっちゃできるのでかっこいいと思ってたんですが、飛び込み営業とかからやってたんですね。やっぱ気合いですね。

ベンチャー社員から、ベンチャーを作る側へ

前職はなんで辞めたんすか?

えぇっと。。。面白かったんですけど。。。元々そういう事業立ち上げるみたいなサポートがしたくて、もちろん実務経験を積めたのは良かったのですが、どちらかというと何もないところから作り出す、生み出すということをずっとやってみたかったんです。

なるほど。とにかくゼロイチの事業開発をいっぱいこなしたかったんですね。ベンチャーで「何でもやってた」社員が抜けるのかなりきついと思うんですが、揉めなかったんですか?

それ聞きますか・・・?言ってしまうと、迷惑を掛けたと思います。ベンチャーに辞めて大丈夫な社員などいません。当時、複数のプロジェクトをさせてもらっていたし、決して褒められたことではないと思っています、、!ですが、今も前職の上司、メンバーと定期的に会ってますので、良好な関係だと思います(多分)。

起業は良いスキームなので、そこに挑む人を増やしたい

アカデミアには就職支援がほとんど存在しない

では、続いてはアカデミアの就職の話を。一般的に就職を考えている人は、まずはマイナビやリクナビなどの就職サイトを見る場合が多いでしょう。ちなみに、武田さん(同席いただいたtayoのインターンの博士学生)だったら何を見るんですか?

tayoインターン武田さん:えっ、もちろんtayoを見ます!

嬉しいんですが、流れとしては難しい答えですね笑

tayoインターン武田さん:アカデミアの就活だったら、いろんな先生と学会とかでお会いしてお話する、とかですかね?

あぁいい答えが出ました。アカデミアって、そもそも就職のサポートをしてくれる会社がほとんど存在しないんですよ。例えば大学の教員になりたいと思っても、その案内をしてくれるような組織や団体がいないんです。だからリファラルしか方法が無くなってしまう。

「起業」に関しても誰に相談すればいいのか分からない人は多いと思うんですが、実は起業に関しては「起業のサポートをするお仕事の人」がちゃんといるんです。転職する人がエージェントに声をかけるように、起業しようとしている人が起業支援を生業としている人に声をかけることが当然の選択肢として広まっていいと思っていて。

以下、津田さん:おっしゃる通りだと思います。

ただ、就職エージェントの場合は、「企業が人を採用するためにお金を出している」という構造が分かりやすいじゃないですか。それに対して、若者を起業させるのが生業の人の場合はどのようなモチベーションで、またどういったお金の流れで若者を起業させようと勧めているのかが分かりづらいので、今回はそこをプロの津田さんに伺えればと。

個人的な見解ですが、起業はとても優れた選択肢だと思っています。

社会を良くしたいとか、あるいは新しい価値を生み出したいという場合、いろいろな方法ももちろんあるんですが、資本の増強が行いやすい「起業」という選択肢はパワフルで持続的なアプローチだと思っています。世界で影響力の大きな組織の多くが株式会社なのはそれなりに理由があるんだと思います。

起業 ≒ リスク、という考え方をお持ちの方が多いのはよく理解しているのですが、厳密には事業に失敗しても誰かに責められたり人生に汚点が残ることは無いと思います。このあたりは実際に起業されている方にほんとのところを聞いてみるといいんじゃないですかね?熊谷さんとかどうでしょう。

僕とtayoの話だと、tayoは現状借入金がゼロなのでいまtayoが倒産しても僕名義の借金が発生することはないです。転職するとおそらく今よりも給料上がるので実は会社無くなってもあんまり困らない気がします。

ベンチャーキャピタルの仕組み

津田さんのモチベは分かったので、次は経済合理性を聞きましょう。津田さんはどうやって儲けているんですか?

ベンチャーキャピタルなので、もちろん将来的な成長を見込んだ上で出資をするというのは前提です。ちなみにベンチャーキャピタルの仕組みを簡単に説明すると、新しくできた会社に出資して株式を引き受けて、その株価が上がったタイミング(上場、MA等)で株式を売却することによって利益を得る、というビジネスモデルです。投資に使う資金は、自己資金も含まれますが大半は出資者さんからお預かりしているものを運用しています。

インターン武田さん:自分のお金じゃないんですね?どこから貰ってるんですか?

個々のベンチャーキャピタルさんによっても異なるのですが、銀行や証券会社、機関投資家、大手の事業会社さんなどが出資者になって頂くケースが多いです。事業で成功を収めた個人の方も増えていると思います。そうした方々に自分達も「こういう投資をしていきたい」とご協力をお願いして賛同して頂くことで成り立っている仕事です。

言ってみれば資産運用の会社ですよね。銀行とかのお金を預かって、目利きしたベンチャーに投資して、利益の一部を得る。

その通りです。自分のお金ではないわけですし、将来の産業を作れるような方々とご一緒したい、だから投資するときには多角的に徹底的に検討します。だから正直出資に至る確率はめちゃめちゃ低いです。また、自分達としては、座して待つだけでは物足りないと思っていて、自分達も大きなインパクトを生み出すスタートアップに貢献したいですし、結局は自分達も頑張らないと、と思ってやっています。

ただ、こういう仕事なのでポジショントークに聞こえてしまうのは仕方ないのですが、根本的なモチベーションとしてはやはり、起業することはとても良いことだと思っているんですよ。若い人や勢いのある人には起業を勧めています。逆に、無理に押すつもりは全く無いです。したい人がしたいときにするのがベストだと思っています。

津田さんの言っている綺麗事はそれはそれで本音だと思っていて、やっぱり投資家といってもディープテックみたいなニッチな領域で戦う人はそれなりに想いがないとできないすよね。「お金稼ぎたいだけ」ならもっと楽な方法がいろいろあると思うので。

BNVの特徴と強み

人の魅力と良い関係性がそのまま市場価値となる

しかしディープテックVCってめちゃくちゃ少ないですよね。そもそも片手で数えられるくらいしかメジャーなところがないと思います。その中でBNVの特徴みたいなところを一言で表すと何でしょうか。

そうですね。言うなれば、人重視だと思います。これは皆が口を揃えて言うことですけれども、うちは特にですかね・・・やはり魅力のある人と仕事をしたいというのが大きいですね。もちろん技術や知財があることも大切ですが、それ以上に人としての魅力がある人間に先行投資していきたいという声が多いです。

人の魅力といっても、例えば個人のパーソナルな能力だけでなくて、チームの関係性みたいなところも大切ですよね。

そうですそうです、創業チーム全体を見ることも大事ですね。メンバーにまとまりがあって、傍から見てこの人たちだったらやりそうと感じられるようなチームはやはり強いと思います。

本当にそうですよね。僕も起業している身として、初期の仲間探しはとても重要だと考えています。やっぱり良い関係性には、それ自体にものすごい価値があると感じますね。端的に言うと、例えばめちゃくちゃ仕事のできるITエンジニアとめちゃくちゃ有能な営業の人がめちゃくちゃ仲が良ければ、もうそれだけである程度ビジネスは成功したようなもんじゃないですか。

そうですね。トリリオンゲームとかそんな話ですよね笑 特にディープテック分野で起業するなら、技術知識のある人とビジネスが分かる人が両方必要になりますからね。それだけでなく、技術が分かる人もビジネスのことを多少は理解していなければなりませんし、逆にビジネスが分かる人も、技術のことを多少は分かっていないといけない。

だから、本当にさまざまなパターンがあるわけです。実際、技術面は全く分からないけど全面的な信頼があってCTOに一任するような体制でうまくいく場合もありますし。一方で、COOやCEOのような立場であっても、ある程度しっかり技術の話ができるというタイプの人もいます。

BNVのお仕事

特にアカデミアの人が起業するとなると、やはり信頼があってビジネスも分かって、なおかつお互いにリスペクトが持てる関係性が理想的ですよね。BNVの一番の強みはビジネスの人と研究者をマッチングすることかと思いますが、実際のところ具体的にはどのようなやり方でディープテックで起業したい経営者候補の人を集めているのでしょうか?

種も仕掛けも無く人力です笑 とにかく普段から、何百人何千人という人と話しています。とにかく大勢の人たちと顔を合わせて、色々とマッチングもこなすと、やはりどういう人がディープテックスタートアップに向いているのかが分かってきます。

BNVの強みとしては、何千人というビジネスマンの人たちと面談をして、その莫大な情報量をもとに、ディープテックのCTOやCOOに向いているような人材をプールとして持っているというところですかね。

そうですね。それはやはり、いろんな起業家さんや投資家の方と交流させて頂いているからこそやれていることだと思っています。いろいろな分野で活躍されている方たちとたくさんコミュニケーションをとりつつ、両軸でポテンシャル層に会って共通点を見つけて、そうして初めて、そういう人たちのプール・人脈を作ることができる。そうすることで少しでも成功率を上げたいなと思っています。

多くの人と会うこと、それから自分から行動することで確かな人脈を作っていくことが本当に大切ですね。これはBNVの全員がやっていることで、まさしくBNVの強みだと思います。

実際に起業の一歩を踏み出すには?

ダラダラ喋りましたが結局この記事はBNVの運営する起業支援プログラムBRAVEの告知記事なので、そろそろBRAVEの話をしましょう。BRAVEが何かとかはHP見てもらうとして、どういう人に参加してもらいたいですか?

やはり意欲があることが一番大切だと思っています。とにかく起業がしたいということでもいいですし、あるいは一つのプロジェクトを実用化したいとか。ご自身の中で明確なビジョンや強い目的意識がある人をすごく歓迎しています。逆に技術の完成度とか、プロダクトができているかどうかといったところについてはあまりこだわるつもりはないですね。知識の部分は後からいくらでも身につけていけますから。

例えば論文をたくさん出していたり、あるいはどんな実験でも一人でバリバリやれてしまうような、そういったアカデミックなヒエラルキーとは別ってことですよね。あとはコミュニケーション能力であったり、目がキラキラしてるかどうかだったり笑。

そうですね、何が正解かは分からないですが・・・笑 それから、例えば「患者さんを助けたい」とか、あるいは「こういう素材を世に出したい」とか、そういったものも大事です。ビジネスについてはそれほど詳しく知らなくても良いんです。後からいくらでも勉強できます。ただやりたい気持ちに関しては外部からはどうしようもないので、内なる熱意が一番重要かもしれません。

どのような見返りを求めて起業するのか

ここまで、どのような人が起業に向いているかという適性についてお話していただきました。最後に、起業した場合自分に返ってくるリターンはあるのかという点についてお聞きしたいと思います。そもそもの前提として、何かが自分に返ってくると見込んだ上で起業しているのか、それとも単純に社会を良くしていきたいというビジョナリーな意思にもとづいたものなのか、どっちがいいんですかね。

そうですね。起業の目的やモチベーションは色々で、金銭的なリターンを求めるという人もいれば、それ以上に世の中に貢献したいという人もいますし、そこは人それぞれです。だから別にはっきりと決める必要性はないけれど、ご自身の中で何か一つは明確なものがあったほうが良いんじゃないでしょうか。

もちろん経済的な成果を出すことに全力を注ぐのが企業活動の王道ですが、たいていは研究技術を使って何かを成し遂げたいとか、もしくは何か新たなものを生み出したいとか、この領域にはそういう人が多いんじゃないかと思いますね。逆に熊谷さんはどんなモチベーションだったんですか?

金銭的なことで言えば、例えばサラリーマンとして年収二千万みたいなことにはそれほど興味を持てないんですよ。でも、自分で会社をやって成功すると桁違いのお金が入る可能性があって、さらにうまくいけば数億や数十億の単位を一代でわっと稼げる可能性も「ちょっとだけ」あるわけです。

ある程度のリスクも伴いますが、こういったオールオアナッシングのギャンブルみたいな生活を、最低限生活に困らないくらいの報酬を得つつやっていけるというのが生き方として面白いかなと思っています。一番納得のできる生き方が、僕にとっては起業だったという感じですかね。

なるほど。たしかに、あまり小難しいことを考えていない人が多いですね。起業する人は自分はこうなんだという軸を強く持っているタイプが多いので、頭で難しく考えるというよりは、まずは行動して後からロジックをつけていくようなパターンが多いです。

そうですね、最初はとにかくやってみたいから、まずパッションが先にある感じでしょうね。ところで、起業というと一般的にはやはりお金が好きな人が成功するようなイメージが強いですが、ディープテックの分野ではどうなのでしょうか?

うーん、まずこの分野ではお金が入るまでのスパンが長いので、そもそも最初から大きく稼げるということは少ないですね。もちろん長くやっていくためには、しっかりと収益を出していくことは大事だと思うんですけれど、金銭面でのリターンの回収が早いビジネスはいろいろあると思いますし、そういう分野を選んでる人が多い印象です。

最後に僕の思想として、やはり生き方の一つとして起業というものがもっと身近にあればいいなあと思いますね。僕自身ディープテック起業家のコミュニティ運営とかしているのですが、お友達同士で、非常に狭いネットワークの中でベンチャーエコシステムが回っているともいえます。

その状態は良くないだろうと思うので、やはりそこでBRAVEみたいな企画が非常に重要になってくると思うんです。希望する人は誰でも参加できるというオープンな状況を作り出すことで、熱意のある人たちがベンチャーエコシステムに気軽に飛び込むことができる。「お友達がいなくても起業できる」のが大事ですよね。

そうですね。おっしゃる通りで、「成功の局在」を意図的に作り出す取り組みとも言えるかと思います。改めて、みなさんの踏み出す一歩を心から歓迎していますので、私達と一緒に挑戦しましょう!

BRAVEの申し込みはこちら

今年10回目を迎えるBRAVEは50チーム程度と過去最大規模の受け入れを行うそうなので、少しでも興味ある方はぜひエントリーしたり、津田さんのXアカウントにDMかましたりすると良いと思います!