多くの日本人研究者が留学をキャリア形成の重要な選択と捉えている一方、いざ帰国しポストを探そうとなった際にはアカデミックポスト・民間就職の両面で、制度面や情報格差など様々な側面から大きな課題が存在します。
本イベントでは留学経験があり、現在、日本のアカデミア、インダストリで活躍する方々にご登壇いただき、日本のポストを探す際に困ったことや情報収集方法、心構えなどに関してケーススタディの共有を致します。
主催:株式会社tayo
共催:Beyond Next Ventures株式会社
後援・協力:一般社団法人 海外日本人研究者ネットワーク (UJA)
■司会:佐伯恵太
海外Ph.D.の帰り方〜オンライン座談会〜
本日はよろしくお願いします。はじめに、本日ご登壇いただいた皆さんに自己紹介をお願いできればと思います。今回のテーマが「海外Ph.D.の帰り方」ということで、まずは皆さんの過去の留学経験や現在の研究内容、学術環境などについてお伺いしたいです。
●中野亮平先生(北海道大学, 大学院理学研究院, 教授)
私は現在、北海道大学理学研究院にて、植物と常在微生物の相互作用に関する研究をしています。元々は京都大学にいて、ドクター~ポスドク1年目まではずっとそちらで研究をしていました。その後、2013年4月に海外学振としてドイツに渡りました。それから丸10年間、ドイツにてポスドク・独立研究員として研究活動をしています。そして昨年4月、実に10年ぶりに日本に帰国しました。北大の理学部教授に着任し、これからはこちらで研究を行っていきたいと考えています。
海外ポスドク~独立研究員として活動していた期間は10年と長いですが、さて帰国しようかと考えたとき、やはりうまくいかないことはたくさんありました。応募書類を出しても出しても通らず、一度はこれでアカデミアを辞めようと決心したこともあります。さまざまな試行錯誤の末、結果的に北大の着任が決まり無事に帰ってきましたが、10年の間には苦しい時間もありました。本日はそんな苦労話などもあわせてお話できればと思います。
●西原昂来先生 (cBioInformatics株式会社)
私は現在、cBioInformatics株式会社に勤務しています。元々は東北大学農学部にいて、主に家畜を扱った研究をしていました。研究内容は、腸管上皮細胞培養系(ウシルーメン上皮細胞、牛エンテロイド)の確立や腸管バリア機能解析など。その後、本来ならすぐに海外留学したいと考えていたのですが、残念ながらコロナの影響で叶わず、そのためしばらくはポスドクとして研究活動をしていました。
その後、一度はアカデミアを離れ民間企業へ入ったのですが、突如留学の話が舞い込んできたため、2022年から北米の大学に移りました。しかしプライベートな事情から日本へ戻ることになったため、2023年頃から転職活動を開始し、現在所属しているcBioInformatics株式会社へ移りました。ポスドクから民間企業~再びアカデミア、そして再び民間という経歴ですので、アカデミアと企業のギャップや転職の際の大変さなど共有できるかと思います。本日はよろしくお願いいたします。
●黒田垂歩先生 (BlackFields Consulting CEO)
私は現在、グローバル製薬会社にて活動しています。出身は北海道大学です。博士学位取得後は理化学研究所にてファーストポスドクとして活動をし、その後、アメリカのボストンにあるHarvard Medical Schoolにて約7年間、ポスドクとして活動をしていました。
そして帰国後はご縁があり、三重大学医学部にてテニュアトラック助教として研究をしています。ここでしばらく研究を続けることもできたのですが、ふとしたきっかけから外資系の製薬会社へと移りました ( バイエル薬品→ レオファーマ→ 国内大手製薬)。また2019~2020年頃から、バイオ/ヘルステックのスタートアップ支援やエンジェル投資、大学での講演やZUMBAフィットネスのインストラクターなど、さまざまな副業もあわせてやっています。
私の場合はおよそ10年のアカデミア経験をもとに外資系民間企業へと転職をしたわけですが、アカデミアを辞めるにあたり、いろいろな心の葛藤や迷いもありました。ただ、転職するにしても、あるいは研究者としてのキャリアを追い求めるにしても、大切なのは自分のルーツとは何かということをしっかり認識することではないかと思うんです。本日は転職の際の状況や気持ちの変化などについてもお話できればと思います。
本日は、多彩な経歴をお持ちの中野先生、西原先生、黒田先生の3名の先生方にお話を伺っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします!
お知らせ
海外Ph.D.が帰国する際に大変なことは?
海外のキャリアがそのまま日本でも通用するとは限らない
さて、今回の大きなテーマが「海外Ph.D.の帰り方」ということで、まずは皆さんが日本に帰国される際、実際に大変だった点や苦労されたことについて詳しくお伺いできればと思います。
中野先生はドイツで長年研究活動をされた後、10年ぶりに日本に帰国されています。ドイツから日本へ帰る時は就活にかなり苦労されたとのことですが、具体的にはどのような面で大変だったのでしょうか?
中野先生:そうですね。もちろん論文の量が十分ではなかったなど現実的な問題もあったのだとは思います。ただ私の場合はずっと研究所にいて、いわゆる教育に携わる機会や実績がほとんどなかったため、それが大きなマイナスポイントになったと考えています。
またそれに加え、仮にドイツで何かの資格を取得したり業績を上げたりしても、それが日本のものではない限り、日本ではなかなか同等に評価されることはないんですよね。たとえばDFG (ドイツ研究振興協会) のフェローシップを獲得したとしても、それがどういったものなのか日本であまり知られていない以上、日本での選考の上で有利になるようなことはほぼありません。
要は、履歴書上に誰がみても分かりやすいような業績が並んでいなければ、どんな人なのか、どのような活動をしてきたのかということがなかなか一発では伝わりづらいんです。一人一人の経歴をよほどじっくり読み込んで吟味してくれるようなところなら話は別ですが、多くの場合、複数人の履歴書をずらっと並べて選考しますから、やはりさきがけなど明確に”すごい”実績が並んでいる人が有利になるのは当然と言えるんじゃないでしょうか。
なるほど…。海外で何らかの結果を出しても、必ずしもそれがそのまま日本でも通用するとは限らないということですね。続いてもう一点、お聞きします。北大への着任が決まるまで、海外と日本のポストへの応募は大体どのくらいの比率でされていましたか?
中野先生:応募先は、はじめはヨーロッパ圏内が主でしたね。最後の2年くらいは、海外と日本が大体半々くらいの割合になっていきました。そして私の場合は時間が経つにつれ、徐々に日本に帰るほうへと心が傾いていたので、終盤はかなり日本に集中していたように思います。
ポストへの応募数を国別にはっきりと分けていたというよりは、個人的なモチベーションや心境の変化により、応募比率がしだいに変わっていったという感じでしょうか?
中野先生:そうですね。ただやはり日本のほうは、当時の私のキャリアステージで応募できるポストがかなり限られていたように感じます。その点、ヨーロッパ圏においては若い人が目指せるポジションというのがたくさんあるので、比較的やりやすい環境だったと言えるでしょう。
続いて、北米に留学されていた西原先生はいかがでしたか?
西原先生:私ははじめ、アカデミアでの就職も考えていました。ただ、当時の私は北米でのネットワークを築くことに全集中していたため、日本の研究者の方とコミュニケーションを取る機会がほぼなかったんですね。そのため、いざ帰国を考えた時、日本の学会には自分のことを知ってくれている人がほぼいなかったんです。
たとえ実力や実績があったとしても、日本で名前や存在を知られていない限り、良い方へ話が進むことはありません。帰国を考えている人は、やはり海外にいる間から出来うる限りの方法で日本の学会へアピールを続けることが大事だなと思います。
中野先生のお話にも通ずることですが、やはり海外で築いたキャリアを日本におけるそれと完全にリンクさせるというのはなかなか難しいのかもしれませんね。黒田先生、ボストンから帰国された際はいかがでしたか?
黒田先生:そうですね。私の場合もやはり、日本にいないというだけで日本の研究者や研究機関との関わりがどんどん薄れてしまっている感覚がありました。私はボストンに7年弱いたのですが、このまま帰る道が全くなくなるんじゃないかというような不安感が常にありましたね。
定期的に帰国しては元々所属していたラボを訪ねたり、関わりを持たせてもらったりはしていましたが、それでもアカデミアの帰国はやはり圧倒的に不利な面が多いなあと感じていました。でも、だからこそ他の選択肢にも積極的に目を向けるようになりましたし、現在製薬企業にいるのもその延長と言えるかもしれませんね。
日本でのキャリアを見越した上でのネットワーキングや、あるいは学会などの場においてしっかりした存在感を示すなど、海外にいてもできることは決して少なくなさそうですね! 貴重なお話をどうもありがとうございました。
オンラインでつながりをつくる大切さ
先ほど、海外にいる間は日本の研究者や研究機関とのコンタクトが取りづらいといったお話がありましたが、それについては時代によっていろいろな変化もあると思います。コロナ禍を機にリモートワークが大幅に普及しましたし、それに伴い今回のようにオンライン上で顔を合わせる機会も増えました。
現在は少なくともひと昔前に比べると、遠くにいる人ともリアルタイムで気軽にコミュニケーションが取れるようになった便利な時代と言えます。この便利さを、たとえば日本でのネットワーキングに積極的に取り入れていくのもアリだと思うのですが、その点はどう思われますか?
黒田先生:そうですね。たしかに現在は、アカデミアで就職するにしても、また民間にしても、相手方とZoomなどで手軽に顔を合わせられるのは非常に大きなメリットであると感じています。そもそも私の時代は、国際電話で教授と話をしたり、もしくはアメリカにいながらA4サイズの用紙を入手してそこに履歴書をプリントアウトするなど、あらゆる場面において今では考えられないような多大な手間がかかっていましたからね笑。
それに引き換え、たとえば最近の私の転職活動一つを考えても、先方と一度もリアルに顔を合わせずに全てのやり取りをオンライン上で済ませることができていますから、そういう面ではずいぶん良い時代になったと思います。
多くのやり取りや手続きがオンライン上で完結するというのはやはり大きなメリットですよね。もっとも、いまだに郵送書類でしか受け付けないというところも決して少なくはないようですが…。その点、中野先生はいかがでしたか?
中野先生:あ~…、郵送に関しては、私は早い段階で諦めましたね笑。どうしても無理があるので、郵送で提出する必要のある公募にはそもそも出さないことにしていました。
一方でオンラインについては、コロナの影響もあり、ここ数年でオンラインセミナー等の場がかなり高い頻度で開かれるようになったと感じます。そういった場には積極的に参加するようにしていますし、アピールのつもりで毎回必ず質問をするように心がけていました。
それを続けていると、やはり見てくれている人というのはいるんですよね。実際、他の先生とお話をした際に、オンラインセミナーで発言されている姿をよく拝見していますよと言っていただけたことも多くて。自分の存在や意欲を示す上では間違いなく効果はあるんじゃないかなと思います。
オンラインで行われるセミナーやイベント等の場を自己アピールにつなげるのは一石二鳥で良いですね! 他の研究者とのつながりを手軽に作れるのは大きいですし、そうした小さな努力の積み重ねが最終的に大きな結果になることもあるのではないでしょうか。続いて、西原先生はいかがでしたか?
西原先生:中野先生と同じく、私も郵送のものは諦めてオンラインで応募できるもののみに絞っていましたね。コミュニケーションの場自体は、ひと昔前に比べるとかなり増えてきているんじゃないかなと思います。ただ、オンライン上で出会った初対面の相手とメールでやり取りをして、それからオンラインミーティングをして、では共同研究をしましょう…という流れだと、実際はなかなかハードルが高い部分もあるかと思うんですよ。
だからこそ、できれば日本にいるうちから小さなつながりを作っておいたり、少しでも顔を売っておいたりした方がやはり話がスムーズになりますし、有利になることも多いと感じます。帰国を考えている人は、海外に行く前からあらかじめ自分を多方面に売り込む意識を持っておいた方が良いと思いますね。
海外での教育経験は日本では評価される?
先ほど、ポストへの応募の際にいわゆる教育経験の有無も評価基準の一つになるというお話がありました。ただ、ひと口に教育と言っても、たとえば大学で講義を受け持つことや学生の論文指導など、その内情はさまざまだと思います。
一つ気になるのが、海外でそうした指導経験を行っていた場合、それは日本ではどの程度”教育経験として評価”されるのかということです。たとえば海外の大学で講師として講義を受け持つ経験がなかったとしても、論文指導などの経験があれば、それはある種の教育経験として認められるのでしょうか?
中野先生:そうですね。そこはもう、審査員の先生方に直接伺ってみなければ分からないことなんじゃないかなと思います。ただ分からないからこそ、私の場合はインターンシップへの参加や学生の指導に関わったことなど、とにかく経験値として提示できそうなものはもれなく履歴書に記入していましたね。学生指導については、生徒さんの名前入りでずらっとリストを作ったりもして笑。それがどれだけ効果があったものかは今となっては分かりませんが…。
ただ、教育経験を問われるといっても、その程度については応募するポジションによってもかなり変わってくるのではないでしょうか。たとえば研究に力を入れているポストであれば教育経験よりも研究におけるキャリアを重視するケースもあるかと思いますし、逆に地方公立大や私立大では、研究より教育にコミットしてほしいという場合もあると思います。申請書の書き方一つとっても応募先によって全く変わってきますから、そこは自分なりに下調べをして、試行錯誤を重ねていくことも大事ですね。
ポストによってはそもそも研究志向が強く、教育面への注力があまり求められていないケースもあるということですね。場面場面で何が求められているかをきちんと把握し、その上で効果的にアピールすることが大事そうです。
西原先生:そうですね。それに加え、自分から戦略的に動くことも大切だと思います。私の大学では時々、ポスドクが授業をさせてもらえることがあったんですよ。授業を担当すればそれを一つの実績として履歴書に書けるので、チャンスがありそうな時は積極的に手を挙げている人が多かったです。自分のメリットにつながりそうな機会を逃さず、毎回何かにつなげようとする意識を常日頃からきちんと持っておくことも重要ですね。
中野先生:西原先生のおっしゃる通りだと思います。ただ私の場合、ドイツではそれはなかなか難しかったなあと。そもそもドイツ語を流暢に操れなければ、授業を担当するなんてほぼ不可能ですからね笑。
西原先生:たしかに、授業をする上での一番のハードルはやはり言語面だと思います。その点、英語圏の大学であれば少しハードルは下がりますよね。ただ、ヨーロッパ圏など英語プラス英語以外の言語の能力も求められるような国であれば、正直ハードルが高くなります。何か実績を作る以前にまずは言語を習得して、少なくとも授業に対応できるくらいの能力を最低限身につける必要がありますから。
言語面における苦労は、やはり留学生活において避けられないテーマですよね。中野先生の場合、たとえば日常会話や実験をする際などはドイツ語を使われることもあったのでしょうか?
中野先生:いえ、そうした場面でドイツ語を使う機会は一切ありませんでした。まあプライベートな場面でドイツ語を話すことは多少はありましたが、仕事の場で求められたことはなかったですね。ただ学部生を相手にする授業となると、必然的にドイツ語がメインになってきます。英語でやれる授業があると、そこにポスドクを呼んでもらえるという機会もあるにはあったんですが…。でも、やっぱりそういうチャンスは非常に少なかったですね。
アカデミアと民間の具体的な違いやギャップは?
働き方や待遇などあらゆる面において、民間企業の研究職と事あるごとに比較されがちなアカデミア。民間への転職を考えている研究者の方は特に、アカデミアと企業間には具体的にどのようなギャップがあるのか気になっている人も多いでしょう。
その点について、アカデミアから製薬会社へ転職をされた黒田先生はどのような印象をお持ちですか?
黒田先生:たしかにそのあたりの事情については、実際に若手研究者の方から質問を受けたりする機会も多いですね。実は以前行ったイベントの際に、よく聞かれる内容を要点ごとにまとめています。今回はその中からいくつか、Q&A形式でご紹介したいと思います
Q:アカデミアを出ればパワーバランスが改善するのか?
A:少なくとも大企業では相当マシです
黒田先生:大学や公的研究機関などのある種 閉鎖的な場所で完結しているアカデミアは、やはりどうしてもヒエラルキーが強くなる傾向があります。極端に言えば、研究内容や方針指針から学生の就職まで全てにおいて教授の意向が働くような場合もありますしね。
では、そういった傾向はアカデミアを出れば改善するのかというと、一般的には企業へ移れば改善する場合が多いです。少なくとも大企業であれば、相当マシになります。そのためアカデミア特有のヒエラルキーがつらい人、教授と上手くやっていく自信がない人はぜひ、企業への転向を選択肢の一つにすることをおすすめします。
Q:企業では実験テーマをどの程度選べるのか?
A:ビジネス視点が入るので範囲が狭まりますが、大抵の人はやりがいを見つけられます。
黒田先生:また企業に入って研究をする場合、実験テーマ等の選択については個人の希望はどれくらい通るのかというところが気になっている人も多いようです。結論から言うと、やはりビジネスとして利益が望めないようなことはできないので、若干範囲が狭まるのは確かです。ただ、大抵の人はそこできちんとやりがいを見つけられます。
そもそもアカデミアにしても、個人的にやりたいことよりも研究予算や論文につながりそうなことを優先する必要がありますし、科研費が取れなければ好きな研究はできないので、自由度という点については実際それほど問題視するほどのことはないと個人的には考えています。
Q:企業の研究では社会実装にどれくらい寄与できるのか?
A:アカデミアよりも社会実装につながるのは確かです。大きな活動の一部になることを前向きに捉えられたらハッピー。
黒田先生:自分のやっていることが社会にとって実際どれくらい役立っているのか、またそれをどれだけ実感できるのか。この点も、研究者の皆さんが日々気にしているところなのではないでしょうか。
結論から言うと、”社会実装”、”社会貢献”という視点だけでみれば、やはりアカデミアよりも企業のほうが一歩進んでいると言えるかと思います。ただ、そのぶん研究活動そのものが個人の活動というよりは組織の大きな活動の一部になっていきますが、そのことを前向きに捉えられる人であれば、きっと上手くやっていけると思いますよ。
海外Ph.D.におすすめの情報収集方法は?
ところで今回のトークテーマの一つとして、「ポスト獲得のための情報収集方法」というものがありました。たとえば日本のポストを探す際に困ったことや情報の集め方、レジュメを出すタイミング、在日本研究者とのアポイントメントの取り方などについては、実際に体験されてきた皆さんだからこそ分かること、若手にアドバイスできることも多いのではないでしょうか。
まずは中野先生、ドイツから帰国される際はいかがでしたか?
日本ならJREC-IN、海外ならX(旧Twitter)はマスト!
中野先生:そうですね。まずはポストを探す際の情報収集の仕方ですが、これは日本と海外では少々事情が違っていたように思います。まず日本のポストの公募については、JREC-INのメールが自動で届く設定にして、それをマメにチェックしていました。あとは日本の研究業界のメーリングリストなども活用したり。
ただ海外のポストについては、必ずしもこうしたサイトに公募情報がきちんと載るとは限りません。もっとも効率よく情報が得られたのはX (旧Twitter) でしたね。わざわざ探すまでもなく募集情報がタイムラインにどんどん流れてくるので、それをチェックしては応募していました。眺めていて気になるものがあれば、リプライやDMを送ればすぐに返答をもらえますから本当に便利ですよね。今でも、PhDやポスドクで海外に行きたいという相談を受けることがあれば「まずはX (旧Twitter) を見ておきな」とアドバイスしています。
情報収集一つとっても国によってそれだけやり方が異なるというのは興味深いですね! 西原先生はいかがでしょう?
西原先生:私も中野先生と同意見ですね。あくまで海外でポストを探す場合に言えることですが、やはりX(旧Twitter) を活用する方法が一番てっとり早いかなと。現に私の所属していた大学でも、X(旧Twitter) で公募情報を見て応募したという留学生は多かったです。日本で探す場合はやはりJREC-INであったり、あとは昔の知人経由で案内がきたり。
研究者コミュニティやLinkedInもおすすめ
やはりここでも人とのつながりが重要そうですね。黒田先生はいかがでしょうか?
黒田先生:そうですね。私の場合はお二人とはちょっと事情が違ったように思います。というのも私は当時、ボストンで日本人の研究者コミュニティの運営に携わっていまして、アカデミア転職がうまくいったのも実はそのことが評価されたことが大きかったんですね。周囲から、「この人はしっかりやってくれるし、信頼できる人だよ」というふうに直接紹介していただけたことも多かったですし。これはあくまで私の例ですが、たとえばアカデミアにおける何らかのコミュニティに関わりを持つことで注目を集めるというのも実はかなり効果的なアプローチ方法ではないかと思うんです。
それから企業に移る際には、LinkedInというビジネスSNSを利用するのがおすすめです。登録して転職エージェントとつながれば、あとは必要な情報や希望の求人に芋づる式につながっていくことがあります。また、アカデミアから民間へ急に転職というのはなかなか難しいので、事前に練習として日本の製薬企業への応募書類を書いてみて、それを実際に製薬企業に所属している友人に見てもらったりということもしましたね。
情報収集方法については、国や環境によってそれぞれ事情が異なってきますよね。現在はSNS含め多数のweb系ツールが発達しているぶん、どのサービスが良いのか迷ってしまう人も多いのではないでしょうか。
今回はお三方から効果的なアプローチ方法について詳しくお話いただき、大変参考になりました。ありがとうございました。
さまざまな選択肢があることを知っておこう
留学や転職を検討している学生にとって、実際に同じ道を通ってきた先輩方の体験談やアドバイスほど参考になるものはないでしょう。最後に皆さんから、今後 帰国や転職活動等をひかえている若手研究者の方々に向けてひと言ずついただければと思います。
日本に帰ることだけが全てじゃない
中野先生:今回のテーマは「海外Ph.D.の帰り方」ということですが、実際は帰国が決まってからも、また日本へ帰ってからも、大変なことやつらいことはたくさんあります。私自身、転職活動に時間を割いている間は研究時間が圧倒的に減ってしまいましたし、プライベートにおいても、特に子育ては正直ドイツのほうがやりやすかったなあと思いますしね笑。
私はいろいろな事情から結果的には帰国する道を選びましたが、個人的には、日本に帰ることだけが全てじゃないよということを伝えたいです。悩んだり迷ったりした時は、さまざまな選択肢があるんだということを念頭に置いて、より柔軟な考え方をする方がうまくいく場合もあります。あまり思いつめたり決めつけたりせず、視野を広く持って多くのことにチャレンジしてみてほしいなと思いますね。
一度決めた意思はしっかり貫いて
西原先生:これは海外で活動するしないに関わらずですが、人生において完璧に自分の思うようにいくことなんてほぼないんじゃないかなと思うんです。特に子どもが生まれると、考え方や価値観が以前の自分とは全く変わってくることもありますし。
だから仕事のことについても、また家族のことも、一つ一つの状況に応じて臨機応変に対応していくしかないと感じます。就職活動についてもどれくらいの手札を用意するのか、そのためにどれだけの時間を割くのかを決めるのは結局は自分次第ですから。それから、意思決定した後にその意思を貫くのも大事ですね。迷いがあればあるだけ、後々後悔する可能性も高くなります。皆さんが自分らしく前向きに向き合えるよう、応援しています。
自分と向き合って価値観を見つめ直そう
黒田先生:アカデミアで頑張っていくにしても、また企業に入るにしても、お金や時間の使い方を含め、皆さんにはできる限り自由度の高い道を選んでもらいたいなと思います。そのためにはまず、研究者としての自分の本質を見つめ直すことも大切ですね。
私は常々、研究者は大きく2つのスタイルに分けられると思っています。一つは研究テーマそのものを愛していてそれだけを追求していける人、そしてもう一つは、自分のステータスを上げるために最適な研究テーマや立場を選んでいける人です。
前者の人は自分の望む研究に邁進できる場所を探していけば良いですし、後者の人は企業に入る道も選択肢に入れつつ、自分が一番心地よくいられる場所を見つけるのがベストなのかなと。他人の意見を聞くことももちろん必要ですが、まずは自分自身の価値観も大切にしてくださいね。
本日は、留学経験をもとに日本のアカデミア界、ビジネス界で活躍されている皆さんならではの貴重なお話やご意見をたくさんお聞きすることができ、非常に有意義な時間となりました。
情報収集方法などの実用的な情報を含め、転職活動における海外と日本のギャップや、アカデミアと企業間のギャップなど、様々な側面からアカデミア帰国の実態が垣間見えたのではないかと思います!
お知らせ
日本でも大学発スタートアップが盛り上がっております、海外勢の帰国のオプションとしても有力なのではないでしょうか。
BRAVE GLOBALは、海外在住の研究者にとってはリモートの外部メンバーとして報酬を得ながら日本の大学発スタートアップと関わることができる大変貴重な機会となっております。
大学発スタートアップは横のつながりも結構あるので、この機会にネットワークを広げてみるのは如何でしょうか。
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