博士人材キャリアウェビナー vol.1
研究者にならなかった博士座談会

「博士取ったら就職できないのでは・・・?」
「大学教員になれなかったら一生アルバイト生活なのでは・・・?」

博士の進路については情報が少なく、こんな声も多く聞きます。

そこで、多様な博士のキャリアを世の中に知らしめるべく、「研究者にならなかった博士」たちを集めて座談会を開催しました。

*本記事は、福岡工業大学の槙田先生が下記ツイートで募集した、Twitter発のイベントのレポート記事となります。

イベント参加申込者数は100名を超え、アフタートークは尽きることなく深夜10時以降もコアな話題で盛り上がりを見せていました。

登壇者は、物理の研究を経てまちづくり事業等に携わっている方から、フランス文学の研究を経てIT系企業でサービス開発を行う方まで…十人十色のケーススタディをご紹介していきたいと思います。

運営側プロフィール

モデレーター:サイエンスコミュニケーター 佐伯恵太さん

https://twitter.com/Keita_Saiki_

・京都大学大学院で暗黒バエの研究を行う

・修士課程卒業後俳優に転身

・子どもたちの考える力を育むYoutube科学番組「らぶラボきゅ〜」のプロデューサー・監督・出演を務める(【科学・研究を楽しくお届け】とつげき!ちきゅうの研究室「らぶラボきゅ〜」 – YouTube)

発案者:福岡工業大学 槙田諭先生

https://twitter.com/twmaks

・横浜国立大学大学院で博士(工学)を取得

・現在は福岡工業大学で准教授に着任。産業用ロボット,ロボットハンド等の研究に従事

・博士課程に進む学生を増やすためにも、博士課程からの進路はアカデミアに限らないということを伝えたいとイベントを企画

主催者:株式会社tayo 代表取締役 熊谷洋平

https://twitter.com/kmoooooog

・東京大学大気海洋研究所にて博士(環境学)を取得

・新卒で民間企業でデータサイエンティストとして就職

・現在株式会社tayoを運営。槙田先生のツイートを見てなんか面白そうだったので声をかけた。

開会挨拶 by 槙田先生

モデレータは私、佐伯が務めさせていただきます。
まずは、企画の発案者である槙田先生にご挨拶いただければと思います。

槙田先生:もともと私は、博士課程に進んだからといって、必ずしも研究者にならなければならないわけではないのではと考えており、一方で世間との認識とは差異があるようだと感じていました。

そこでこの度、独自なキャリアを描いている「研究者にならなかった博士」を5名お招きしました。

今日は学生の方も多く参加していただいているので、このイベントを通じて、博士課程の門戸が広がることを願っています。


それでは早速ですが、本日ご登壇いただく方々の紹介をしていきたいと思います。

今回の登壇者

一人目:杉森さん(生物系→外資ITコンサル)https://twitter.com/PhD_sei

  • 学部3年次からショウジョウバエの発生遺伝学の研究を開始
  • 博士課程取得後30歳から就職活動を始めるも新卒採用枠は難航し断念
  • 切り口を変えて、中途採用枠で外資コンサル企業に就職。現在は研究者支援にやりがい

二人目:アリアさん(理数系→金融系)

  • 東工大で博士号を取得
  • 当初はアカデミア志望だったものの、学振の結果が振るわず並行して就活を開始
  • 第一志望の金融企業に合格したため就職を決心

三人目:ゆーみるしーさん(素粒子物理→まちづくりなど)https://twitter.com/yumILC_

  • 総研大で素粒子物理を専攻
  • 在学時から研究のアウトリーチやアクセサリー制作を行う
  • 現在は社員数6名の会社で、イベントやコミュニティスペース運営等多岐にわたる事業に携わる

四人目:フジタジュンコさん(フランス文学→IT系)https://twitter.com/junko_fujita

  • 17歳の頃ジャン・ジュネの著作と出会ったことをきっかけに研究者を目指す
  • 博士課程を中退して当時アルバイトしていた学生ベンチャー(ソフトウェア開発)に就職、以降IT系に勤務
  • 現在は株式会社LIXILのデジタル部門に所属、情報設計やUXデザインを手がける

五人目:大久保さん(情報工学→機械メーカー)https://twitter.com/Marchalloakbow

  • 電通大でデバイス設計の研究を行う
  • 在学中にフリーランスのエンジニアとして仕事を始める
  • 現在は外資系ロボットアーム製造メーカーでアプリケーションエンジニアとして活動中

パネルディスカッション

博士の就活TIPS 〜就活どうやった?〜

では早速、皆さんの就活事情についてお聞きしていきます。熊谷さんはtayoでの人材事業を通じて、数多くの学生の進路をご覧になっているかと思いますが、お考えなどありますか?

熊谷:博士まで進んだ人は新卒一括採用の枠を狙うと損することが多いですね。

なので、基本的には中途として就活した方がいいんですが、「民間企業の経験ない中途人材」を雇う企業は限られている。日本の就活市場では大学院、特に博士課程まで行ってしまうと「中途でも新卒でもない人材」になってしまうので、その辺りを解消できるサービスを作りたいというのがtayoの創業の目的でもあります。

杉森さん:実際私も新卒一括採用は全然だめだったんですよね。中途採用枠の方が書類審査で評価してもらえたりしました。給与等の条件面でも、入り口でずいぶん変わってくると思います。

論点は新卒採用か中途採用かという点になりそうですね。アキラさんは新卒採用で就職されたんですよね?

アキラさん:そうですね。新卒採用の場合は、「他とどう差別化するか」が重要で、僕の場合は「博士号を取るために、独自で世界初の研究をしていた」というアピールをめちゃくちゃしました。それが評価に繋がったと思います。

なるほど。研究内容が独自だということって研究の観点からは当たり前過ぎて、あえて強調しなかったりしますよね。

アキラ:はい。独自性を理解してもらうために、分かりやすい説明を試行錯誤して考えていました。もちろんうまくいかなかった会社もありましたよ。

大久保さんは、フリーランスから就職をされたんですよね。

大久保さん:結構自分の場合は他の皆さんのように美しいキャリアではなく、いきあたりばったりではありますね。学生の時からフリーランスでエンジニアとして仕事をしており、スタートアップでの就業を経て今の会社で働いています。僕はあまり人生を最適化しようとは思ってなくて、その時々の好奇心を大切にするような仕事の選び方をしてきました。

すごく素敵な考え方ですね。今の時代って、「キャリアパスを明確に生きなさい」という世の中の圧力みたいなものを感じることがありますが、自分がどう生きていきたいのかなんて分からないことがほとんどですよね。それで、進路に悩まれている方も多いのではと思います。

今回唯一文系ご出身の藤田さんは、いかがでしょうか?

藤田さん:自分は、博士課程を中退して学生ベンチャーに入りました。その時は月200時間残業とかもあって、もう何も考えずに仕事してましたね。そこから興味のある方へ進んでいって、今があると言う感じです。

200時間!すごいですね。最後にゆーみるしーさんはいかがですか?

ゆーみるしーさん:私の場合、スカウトだったんですよね。今の会社が運営元となっている、Tsukuba Place Labというコワーキングスペースでイベントを開催したり、アクセサリー製作の支援をしていただいたりしているうちに、代表にまずスタッフにならないかと声をかけられ、その後会社にも入社することになりました。

てっきり、皆さん就活をして就職をされているものだと思っていましたが、その限りでも無いんですね。

ゆーみるしーさん:そうですね。何がきっかけになるかって、分からないものだなぁと思います。博士課程に行ってたからというよりは、学部時代に色々と活動してたのが繋がっていったんですよね。

なるほど。そういうケースもあるんですね。槙田先生、ここまで多様な働き方やマインドのお話がありましたが、いかがですか?

槙田先生:キャリアはみなさん一人一人違うのですが、博士マインドというか、新しい道を切り拓こうという根っこの部分は共通しているような印象を受けました。

槙田先生は就活などされたことはあるのでしょうか?

槙田先生:自分の場合は、合同説明会に行ったらめちゃくちゃつまらなくて、アカデミアに行こうと思って博士課程に行くことにしたんです。ただ、横浜国立大学は、博士課程に行く人が少なくて、ほとんどが就職していくんですよね。なので、自分みたいな人間は稀でした。

研究室もかなり少人数だったので、「このままでは孤立するのでは」という危機感を抱いて、大学の垣根を越えた「横のつながり」を紡げるように活動していました。その時のご縁は、今でも色々な機会に繋がっているなと感じています。

研究を続ける上で、キーワードとしてあるのが「孤独」ですよね。外の世界に目を向け続けるためにも、いくつかのコミュニティと接点を持っておくのは良いことなのかもしれません。

会場からのリクエストがあったので、次のトークテーマは「したい研究」と「仕事」は分けるべきか?でいきましょう。

「したい研究」と「仕事」は分けるべき?

大久保さん:僕は割と分けて考えていますね。心の底でやりたいと思っていることと、生きていくためにやっている仕事は別のものです。
ただ、例えばシステムの設計、研究、調査など、表面的には違うように見えても根底のところで共通していることはあると思っています。
そういう部分を意識して、自ら興味を持てるようにしています。

ゆーみるしーさん:私の場合は逆に、分けないタイプですね。
会社の方も「やりたいことやりなよー」という雰囲気なので、基本的には自分のやりたいことを仕事にしています。

アリアさん:自分はその中間のような感じで、基本的なスタンスとしては「やりたい研究」と「仕事」は一緒にしたいと考えています。
ただ、自分の仕事の中で、ゴリゴリに数理を使う部分と事務系の業務は両方あります。
大学の先生に近いかもしれませんね。雑用は色々と降ってくるけど、その合間を縫って自分のやりたいことをやっていくという仕事の仕方をしています。

なるほど。やりたい仕事をできるように模索していくことは、仕事をする上での永遠のテーマかもしれません。

ズバリ、博士号は仕事に役立ってる?

ゆーみるしーさん:博士号があったから採用されたという訳ではなかったですね。

「研究内容が仕事に繋がっているか」という点ではいかがでしょうか?

杉森さん:正直、研究内容が丸ごと役立つかと言うと、そこまでではないです。
ただ、研究を通じて、クライアントの課題を理解したり、アプローチを考えたりする思考法は仕事にも生きていると思います。

ゆーみるしーさん:確かに、企画書を書くときに、構成などが論文とほとんど同じだったので、そういうところも汎用性あるなって感じますよね。知っていることから知らないことを導く、何かを調査するときの「勘所」はすごく養われる気がしますね。

熊谷:僕も助成金や色々な支援プログラムの申請などに、アカデミアで学振や科研費を書いてきた経験はとても活きているので、「学振をしっかり書くと後々すごく役に立つ」というのはこの場で学生の皆様に主張したいです!

なるほど。研究テーマそのものというよりも、研究に付随して培われるスキルが仕事に役立つケースが多そうですね。フジタさんはいかがですか?

フジタさん:そうですね。博士課程中退っていうと結構食いついて下さるので、飲み会の持ちネタが増えたのはよかったです…っていうのは冗談なんですが笑
今、私は「HCD(Human Centered Design:人間中心設計)」というプロセスに基づいて仕事をしていますが、その領域での議論が今までの研究テーマに近く、文献も共通しているので、繋がっているかなと思います。

熊谷:飲み会ネタを持ってるのはビジネスでも意外と大事ですよね。覚えてもらえるので。佐伯さんは、暗黒バエの研究が俳優業に繋がったりしないんですか?

それはすごくあります俳優は星の数ほどいるので、監督に覚えてもらうのはすごく大変なんですが、「ハエの話してた子」って高確率で覚えてもらえるんですよね笑
あとは、演技についても科学的なアプローチが通用する部分もあるので、そういう意味でも研究は仕事に繋がっていると感じています。
アリアさんはいかがでしょうか?

アリアさん:自分が仕事に一番活きていると思うのは、プレゼン力ですね。
研究を通じて、課題に対して事前に調べておく姿勢が身につきました。
そのおかげで、ミーティングで即座に説明を求められても対応できるようになったと感じます。

ただ、仕事ではスピード重視で及第点を求められるタイミングでも「常に全部を知っておかないと気が済まない」という博士マインドで満点を目指してしまうっていう難しさもありますね笑

みなさん頷いてますね。満点を目指してしまうことへの悩みは、僕もすごく分かります。どれだけ時間を浪費したことか…笑

最後に

名残惜しいですが、そろそろ終わりの時間が近づいて参りましたので、まとめに入っていきたいと思います。

槙田先生お願いいたします。

槙田先生:今回の企画は、「もっとカジュアルに博士をとる人が増えればいい」という思いで考えたものでした。

例えば、車の免許とか仕事のための免許だと、みんな何の疑いも持たずに取りに行くのに、博士だとすごくつっこまれるのって、少し健全じゃないと思っていたんですよね。

個人的な体験ですが、博士に行こうか迷ったときに研究室の先生に相談したんです。

そうすると、「迷ってるんだったら行ってみれば良いじゃん。やりたいと思わなかったら迷わないでしょ?」と言っていただいて、目から鱗が30枚くらい落ちた気がして、行くことを決めました笑

まずは博士課程に進んでみて、違ったら辞めてしまえばいいんですよね。

だから、もし今日参加してくれた人の中に、博士課程への進学を迷っている方がいたら、僕は進学してみることをお勧めしたいと思っています。

ありがとうございます。最後に熊谷さん、お願いいたします。

熊谷:僕自身も、「博士過程?行きたかったら行けばいいじゃん」って世界観に近づけたら良いなと思ってベンチャーを立ち上げたので、今回のようなイベントは継続してやっていきたいと思っています。本日は登壇者の皆さん、貴重なお話をありがとうございました。

企画:株式会社tayo

協力:日本ロボット学会 若手・学生のためのキャリアパス開拓研究専門委員会

自ら多様なキャリアを生み出そう

「博士の多様なキャリアパスを知るには、先輩方の意見を聞くのが大事だろう」というのが今回のイベントの趣旨でした。しかし、民間企業のキャリアを考える上では、当然民間企業がどんな人材を求めているのかも知る必要があります。

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