はじめまして。今回、初投稿させていただきます佐伯恵太と申します。
私は【新感覚!教育バラエティ】とつげき!ちきゅうの研究室「らぶラボきゅ〜」というやや長い名前のYouTube番組のプロデュース・監督・出演をしております。番組内容は、研究室の先生と子供たちがお喋りしたり、時には遊んだりしながら科学について学んでいくというものです。
研究を社会に発信したい!と考えていらっしゃる研究者・学生・サイエンスコミュニケーターの皆様、そして、研究や科学に興味のある方々も是非、ご一読いただけましたら幸いです。
今回は、このプロジェクトを開始するに至った経緯や、番組の内容、実際の今までの活動などについて綴っていきたいと思います。本題に入る前に、まずは是非一度、番組をご覧ください。
DC1から俳優の道へ
まずは自己紹介をさせていただきます。私は、京都大学大学院理学研究科で修士号を取得後、日本学術振興会の特別研究員(DC1)として博士後期課程に進学するも、1年目を終えて自主退学。その後芸能の道へと進みました。現在は俳優業を中心にタレントとして活動しながら「らぶラボきゅ〜」を作っています。
ちなみに、大学院では「暗黒バエ」という何とも厨二病な感じのネーミングのハエを研究していました。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、京都大学で代々受け継がれてきた「暗闇環境で飼育・継代され続けてきたキイロショウジョウバエ」です。キイロショウジョウバエは言わずと知れた生物学研究界のスーパースターで、ありとあらゆる研究に使われています。しかしそんなハエを暗闇で飼育し続けるだけで、生命の進化を実験室内で観察して解き明かすという壮大な研究になるのです。研究において着眼点と根気強さがとても大切だということを学びましたし、そんな研究に惹かれました。
私は元々、物心ついた頃から昆虫採集をしていたような昆虫好きでしたので、暗黒バエ研究では行動解析担当として、通常の(明暗環境で飼育された)ハエと暗黒バエでの行動面の違いについて、特に聴覚に関わる行動について研究していました。具体的には、キイロショウジョウバエにとってとても重要な「求愛ソング(片方の翅を震わせて鳴らす音)」をハエに聴かせた時の行動を見ていたのですが、暗黒バエが生活してきた暗闇環境において、暗黒バエは通常のハエより敏感に求愛ソングに反応するという興味深いデータも得られました。生命の進化というテーマに対して一歩踏み出せたワクワク感を、今も鮮明に覚えています。
暗黒バエ研究の詳しいお話については、へんな生き物や面白い動物について解説をする動画をアップされている「へんないきものチャンネル(変な生き物チャンネル)」で先日解説をさせていただきました。是非こちらの動画もご覧いただけましたら幸いです。ちなみにこのコラボレーションは芸能活動や「らぶラボきゅ〜」の制作をしていたからこそ実現出来たもので、感慨深いものがありました。
大学院修士課程から取り組み始めた暗黒バエ研究。壮大なテーマでしたのでしっかり探求したいと思い、博士後期課程に進学したいと考えるようになりました。研究に集中できる環境を得るため、特別研究員(DC1)に採択されることを目指しました。論文が書けていなかった私は、他の部分で何とか差別化を図ろうといくつかの工夫をしました。まず考えたのが研究費を獲得することです。挑戦の結果、株式会社リバネスのリバネス研究費を獲得することができました。
また、特別研究員の申請書を誰よりもわかりやすく見栄えの良い形にすることにも注力しました。文章構成などはもちろん、申請書に挿入するハエのイラストも、プロのイラストレーターの方に細かくオーダーして納得のいくものに仕上げました。
そんな様々な工夫の末に獲得した特別研究員の身分ですが、芸能界への挑戦のために自ら手放すことになります。ここで唐突に出てきた芸能界への挑戦ですが、芸能の道へ進んだのは、研究が苦痛になったからでも、ある日映画を観ていて稲妻が走ったわけでもありません。高校の頃から理数系で勉学に励んできた私ですが、実は傍で、当時映画化・ドラマ化され大流行していた「ウォーターボーイズ」を観たことをきっかけに男子シンクロにハマり、高校の文化祭などで披露していたのです。ここでいう男子シンクロは、いわゆる競技シンクロ(現アーティスティックスイミング)ではなく、エンターテイメントとしてのシンクロショーです。
学業と並行して男子シンクロに明け暮れる日々。高校では水泳部として取り組んでいたのですが、大学入学時にチームを結成、大学院に進学する頃にはかなり活動が本格化していました。研究とシンクロ、それぞれの点と点が線になることは無いまま、悩んだ末に芸能の道を選択しました。その後、チームの解散などを経て俳優に転身し、今に至ります。
コロナ禍が転機に
その後は俳優・タレントとしてのキャリアを一歩一歩積み重ねていく日々でしたが、突然転機が訪れます。新型コロナウイルスの報道が始まったかと思えば瞬く間に感染拡大し、今まで当たり前のように仕事をしていた撮影現場は「3密を極める場所」となってしまったのです。
今でこそ感染対策が最大限施された上でドラマや映画などの現場も再開していますが、当時は本当に業界がピタリと止まっていました。ただひたすら自宅で過ごしていた期間が、一度立ち止まって自分の強みや、可能性について改めて考えるきっかけになりました。
すると、今まで目の前の芸能活動に精一杯で忘れてしまっていた大学で学んだ日々のことや、研究室での日常を思い出しました。「自分は面白い研究室を、素敵な研究者を、素晴らしいアカデミアの世界を知っている。そのことをエンターテイメントに乗せて、世の中に届けたい!」
そしてついに、アカデミアでのキャリアと、エンタメ業界での経験を掛け合わせ、子供向けの科学番組を自ら制作することを決意します。子供向けにしたのは、単純に子供が大好きであることと、学生時代に水泳インストラクターとして子供たちの指導をしていた経験があったこと、そして、一番学びの機会を失ってはいけないのは子供だと思ったことが理由です。
2021年2月に番組制作をするためのクリエイターチームを結成するため声を上げ始め、メンバーが合流、コンテンツの中身について検討したり、研究者の方々と出演交渉をしながら、キャラクターや世界観も作り上げていきました。子供たちがより親しみを持って楽しめるよう、惑星Qと地球という遠く離れた2つの惑星の物語になりました。
急ピッチで制作を進め、4月3日に番組本編の第一回を公開することができました。記念すべき第一回のゲストは、芝浦工業大学の日髙杏子先生です。手探りの中、一緒に番組を作り上げてくださったこと、本当に感謝しております。こちらのサムネイル画像は日髙研の学生の皆さんが作ってくださいました。荒削りながら、思いの詰まった動画です。
番組は一ヶ月で1つのテーマが学べるようになっておりまして、こちらの再生リストでは4月から6月の番組が一連でご覧いただけます。
その後、番組制作を継続し、よりたくさんの方々に届けるためのクラウドファンディングを実施。6月末に目標金額の100万円に到達。最終的に112人の方々から、総額109万円をご支援いただくことができました。ご支援いただいた方の中には、俳優・タレントとしての私を応援してくださっている方も多数いらっしゃいます。二足の草鞋でなかなか大変な面もありますが、自分の芸能活動がこのプロジェクトに生かせたことは嬉しく思います。
「らぶラボきゅ〜」本格始動!
クラウドファンディングで無事予算を獲得することが出来、現在は毎週土曜日あさ7時に番組本編を公開しております。
先月8月は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けまして、急遽月間テーマを「新型コロナウイルス」としてウイルスやワクチンに関する動画を公開しました。
新型コロナウイルスは私たちの生活を脅かす存在でありますし、そういったものと対峙した時、私たちはどうしても感染者数など目先の情報のみを追いかけたり、ワクチンって効くの?効かないの?結果だけ教えて!という風になりがちですが、デマに流されず、正しく恐れるためにはやはり、体系的に学ぶことが大切であると考えています。そもそもウイルスとは何なのか。そして、天然痘や狂犬病のような恐ろしいウイルスの存在を知ったり、スペイン風邪のようなウイルスの弱毒化の事例を知ることで、相対的に新型コロナウイルスがどのようなものであるかが見えてくると思うのです。
刺激的なタイトルや恐怖を煽るような内容の動画が視聴されやすいという現実がありますが、それでもやはり科学的に信頼のおける情報を発信していくことを一番大切にしています。
そして今月9月は、学術VTuberの皆様とのコラボ企画として「バーチャル研究室」というテーマでの一ヶ月をお届けしております。
今までは実名の研究者の方々に顔出しでご出演いただいていましたが、今月はバーチャルの先生たちに次々登場していただきます。この番組では先生のお話がメインになるので、その先生が個性豊かなバーチャルの存在であることでより親しみやすく、ポップな動画になることを期待しています。
こちらは「バーチャル研究室」の第一弾動画です。
また、「番組プロデューサーが語るシリーズ」と題して番組への想いや今後の展望などを語る動画を配信したり、番組公式twitterではYouTubeの番組本編を観てくれた子供たちによる連動企画なども展開しています。
アカデミアの世界とエンタメ業界、二つの道を歩んできたからこそ、教育コンテンツとしても、エンターテイメント作品としても妥協のない動画作りを大切にしています。
「たのしくて」「ただしくて」「ためになる」
この3つを意識しながら日々、試行錯誤しています。成功者は語る。という記事ではなく現在進行形の奮闘記として、成功も失敗も皆様と共有させていただくことで、少しでもお役に立てましたら幸いです。今回は自分史のような内容になりましたが今後は、いま注目している教育系YouTubeや、今後のサイエンスコミュニケーションのあり方などについてもまた、お話させていただければと思います。
興味をお持ちいただけましたら是非「らぶラボきゅ〜」のYouTubeチャンネルに遊びに来てください。Q王国のみんなで、お待ちしております。
最近のコメント