たのしいバイオものづくり

「バイオものづくり」という単語を聞いたことありますか?

我が国の政府が肝入りで打ち出している単語で、岸田政権では日本経済復興のための6つの産業政策の一つに位置付けており、「炭素中立型社会の実現」「デジタル社会の実現」などと並んで強い存在感を放っております

内容としてはめちゃくちゃ真っ当で、「ゲノム解読のコスト低下」「解析技術の進歩」「ゲノム編集」「合成DNA」とかの技術的進歩と、ラボラトリーオートメーションなどを組み合わせて「生物の機能を活用した新たな物質生産プロセスを作り出し」、「化石資源への依存脱却など地球規模の社会課題の解決と経済成長に役立つ」というお話です。

僕は研究者としては海洋微生物のゲノム解析が専門で、僕のかつての専門がめちゃくちゃ盛り上がっているな〜と思っていました。しかも、早稲田の昔から知ってる研究室から出たベンチャー企業がバイオものづくりの代表的な企業の一つということで、今回はインタビュー企画してみました。

お相手は早稲田大学発のベンチャー企業、bitBiomeさんです!

インタビュアー (株式会社tayo)

熊谷 洋平

2018年、東京大学大気海洋研究所にて博士(環境学)を取得。博士号取得後はITベンチャーで機械学習エンジニアとして勤務。専門はバイオインフォマティクス、海洋微生物学など。今は研究やってないので専門性を活かして起業した人を楽しそうだな〜と思って見ている。

インタビュイー (bitBiome株式会社)

執行役員CTO 津田 宗一郎さん

神戸大学にて博士号取得。日本学術振興会卓越研究員、オンチップ・バイオテクノロジーズ株式会社などを経て2020年にbitBiomeに入社。2022年9月より現職。

依田 卓也さん

早稲田大学にて博士号取得。大手総合商社を経て、2019年にbitBiomeに入社。

馬橋英章さん

東京大学にて博士号取得。米国ワイオミング大学、お茶の水女子大学を経て、2022年からbitBiomeに入社。

シングルセル解析 x バイオモノづくり

僕も学部が早稲田かつ微生物系だったので、早稲田発の微生物系ベンチャーにわくわくしております。本日はよろしくお願いします!まず、CTOの津田さんに設立の経緯とかお伺いしようかな。

津田さん:微生物を対象としたシングルセルゲノム解析技術をコア技術に、2018年に創業した早稲田発スタートアップです。現在早稲田大学の准教授でもある弊社CSOの細川が立ち上げました。

私自身は、海外アカデミアで数年研究を行い、帰国後に大学やスタートアップでバイオ分野の研究開発に関わってきました。bitBiomeに入社したのは2020年で、現在はCTOとしてバイオものづくり事業を進めています。

シングルセル解析とバイオものづくりってどう絡むんですかね?新規酵素の発見とかすか?          

シングルセルゲノム解析で得られた「微生物の遺伝子データ」を中心にバイオものづくり事業を展開しています。新規酵素の探索も可能で、弊社の強みである3つの技術、bit-MAP®、bit-GEM、bit-QEDを駆使して、複数のサービスを立ち上げています。

具体的にどのような技術ですか?

bit-MAP®( bitBiome Microbiome Analysis Platform)は、創業時のコア技術である微生物を対象としたシングルセル解析とバイオインフォマティクスを含む微生物ゲノム解析全般を提供する技術です。シングルセルゲノム解析では培養を介さず微生物をゲノム大量に取得でき、どの遺伝子がどの微生物から来ているか紐付けられることができます。新規酵素の開発において、安全性の懸念等から遺伝子の由来を重要視する場合もあるので、遺伝子保有種が特定できている配列データはバイオものづくりへの活用において大きな強みとなります。

bit-GEM(bitBiome Gene Encyclopedia from Microbes)は、bit-MAP®を利用して、様々な環境(土壌、河川、温泉など極限環境)から得られた膨大な微生物ゲノムを収録したデータベースです。現時点で12億遺伝子を収録しており、世界最大規模となっています。公共データベースにも収録されていない遺伝子データが多数あるので、新しい機能を持った酵素遺伝子などを探すニーズに応えることができます。

bit-QED(bitBiome Quality Enzyme Discovery)は、バイオインフォマティクス技術とケモインフォマティクス技術を活用した独自解析技術と、ラボオートメーションによる大規模スクリニーング技術を駆使した酵素探索・改良支援サービスです。bit-GEMに収録されている膨大な候補遺伝子群の中から、有望な配列をin silicoで絞り込み、迅速に実験評価まで行います。また、目的に応じて機能を向上させていくDirected Evolutionもin silicoによる改変残基候補の絞り込みからハイスループットスクリーニングまで一貫して実施し、目的機能を有する酵素の取得を最短で実現します。

これら3つの技術によって、利用者のニーズにあった遺伝子を提供し、バイオものづくり関連の研究開発の効率化をサポートしています。

シングルセル解析の利点として、環境中のレアな微生物を特定しやすいとかあったりするんですかね?それともいっぱいいるやつばっかり読めちゃうんでしょうか。

環境によりますね。例えば腸内細菌はほとんどが同じ種類の微生物で、例えば100種類の細菌がいたら、80種類ほどは同じというイメージです。しかし、100種類の細菌が全て異なるような多様性の高い環境もあるので、そういう場所ではより色々な微生物の情報が得られます。

例えばフローサイトメーターを使うとか、特定の分類群だけ取ってくるようなことはしてないんですか?

それもやってます。例えば生きている細胞や標的の遺伝子を有する細胞を選択的に取ってくるような手法は去年論文を出しました

面白そう!さっき様々な環境のデータがあるということでしたが、環境からのサンプリングもやってるんですか?

数ヶ月に一回程度は自社でサンプリングを行うこともあります。例えば高温で安定する酵素を求めて、温泉でサンプリングをしたり。5リットルの水を持って帰らなきゃいけないのは結構重労働です笑

PCRに使われるDNAポリメラーゼには、鹿児島県沖の海底火山由来のものもありますね。日本は温泉大国ですし、温泉の微生物の研究もかなり進んでいるのでそこから産業応用可能な遺伝子が取れるとアツいですね!

商社からベンチャー研究職へ

本日はR&Dのマネージャーの依田さんも参加してくれています。依田さんは僕と同期なので勝手にシンパシーを感じているのですが、どんな経緯でbitBiomeに参加したんですか?

依田さん:bit-MAP®の基礎が開発された早稲田大学の研究室の出身で2018年に博士号を取得しました。博士課程では動物細胞のシングルセルRNA-seqの研究に携わっていましたが、同じ研究室内なので微生物のシングルセルゲノム解析についてはよく知っていました。卒業後は研究を社会に還元するためにはビジネスが必要だと感じ、大手の総合商社に入社し、その後bitBiomeに参加しました

博士新卒で商社は珍しいすね!どんなきっかけですか・・・?

元々、起業なども含めて研究の社会実装に興味がありました。そのためのキャリアを色々考える中で、早稲田大学の講義を通し、商社のビジネスに興味を持ちました。それまで商社がどのようなことをしているかよく分かっていなかったのですが、色々と新規事業の取り組みに関する話を聞き、ビジネスを作り世界に貢献できることと、研究の社会実装することに共通点を多く感じ入社を決めました。    

bitBiomeにはどんなきっかけで参加したんですか?

創業者の細川からのお誘いがきっかけです。本来は商社で国内外問わず様々なビジネスに携わりたいと考えていました。しかし、自分が学生時代からよく知っている技術で、まさにビジネスが立ちあがろうとしているチャンスと天秤にかけ、bitBiomeへの参画を決めました。    

元々研究者としてはDry/Wetだとどの辺が専門なんですか?    

私はWetですね!学生時代はマイクロ流体デバイスも使っておらず、微量の試薬をチューブに分注する職人芸と、大量の実験をこなすパワーで突破する系の研究をやっていました。あとは空間的トランスクリプトームをやるためのサンプル採取装置の製作とかもしてました。

パワープレイヤーですね!笑 アカデミアとベンチャーでの研究環境の違いとか感じそうですが、思うところありますかね?

今bitBiomeの全てのラボの立ち上げに関わってるので違いを日々感じますが、一方で成長も強く感じています。例えば大学だと「今ある機械でどう実験するか」という発想になりますが、ベンチャーだと「目的を達成するためにどうラボをデザインするか」から考えるので、より最短経路を走っている感覚がありますね。また、目標に向かってチームでアプローチする一体感も強く感じます。

仕事のやりがいについてはどうですか?

非常にあります。私は創業初期から在籍しており、bit-MAP, bit-GEM, bit-QEDのすべてのスタートから事業としての発展までに関わることができました。研究を社会実装することを、まさに手触り感を持ってできていると思います。今は、研究開発だけではなく当社の技術群を最も理解している者として、事業開発にも携わることができています。新しい課題に日々直面していますが、bitBiomeで働き0から1を創り出す経験を積むことに、楽しさとやりがいを感じています。

PIからベンチャー研究職へ

そして馬橋さん。7年半の海外ポスドクの経験など色々お伺いしたいことあるのですが、農芸化学分野のご出身とのことで元々バイオ x ものづくりみたいなことに興味があったんですかね。

馬橋さん:有用遺伝子の探索や生物生産は非常に面白い研究テーマですが、元々この分野を目指していたわけではありませんでした。    

「なぜ人間は生きているんだろう?」ということを知りたくて、高校生の頃から漠然と研究者になりたいと思っていました。「哲学」と「遺伝子研究」で迷い、遺伝子を選んだ形です。結果的には、東京大学の農学部に進学しました。

博士卒業後の進路はどうだったのでしょうか?

博士取得後に1年間所属研究室でポスドクをした後、縁がありワイオミング大学に留学することになりました。ワイオミング大学にいた頃、所属研究室からスピンアウトしたベンチャー企業が設立されました。大学の研究室ではポスドクとして、ベンチャー企業では研究のアドバイスなどを行う研究コンサルとして働くという貴重な経験をしました。そのおかげで、日本でベンチャー企業であるbitBiomeへ就職する際に違和感などはありませんでした。

インダストリとの関わりもあればそのまま現地で就職も現実的かと思うのですが、なぜご帰国されたんですか?

研究環境がとても素晴らしく、気づけば7年半も経ってしまいました。自分独自の研究アイデアを色々と試してみたいと思うようになったことや家庭の事情もあり、帰国を決意しました。

その時、ちょうど自身の経験とマッチした公募があり、5年ほど国立大学でPIを経験しました。でも、米国時代に比べると、様々な事情もあり、思うように研究を進めることはできませんでした。環境を変えてみるのもアリなのでは?と考え始め、視野を広げて民間への転職活動を行い、bitBiomeに入社しました。

海外ポスドクやPIも経験された上で、現在民間でのキャリアのどんなところが魅力だと思いますか?

アカデミアと企業の違いは当然ありますが、多様な専門性を持つ社内の人材が協力して研究開発に取り組む環境・文化が整備されていることはすごく魅力的ですね。前職ではPIとして一人で研究室運営をやっていたので、外部との共同研究はできますが、基本全部一人でやらなきゃいけない。私は、bit-QEDを活用した酵素開発が主担当ですが、ゲノムシーケンスのチームやバイオインフォチームなどと密にコミュニケーションしながら、研究開発はアカデミアや米国時代に比べてもものすごいスピードで進んでいく。このような経験はこれまでなかったので、非常に新鮮な気持ちで臨んでいます!バイオ系博士号取得者のキャリアパスとしてこのような例もあるよ、と胸を張って言えるように仕事を頑張っていきたいと思っています。

bitBiomeでは一緒に日本発のバイオものづくりのイノベーションを起こす仲間を募集中です!

そんなbitBiomeでは現在wetの研究者とバイオインフォマティシャンを大募集中です。

「多様なバックグラウンドを持つ人がそれぞれ違った技術や経験を持ち寄り、みんなで協力してプロジェクトを進めております。今最も注目を集めているバイオものづくり分野の研究開発に取り組みましょう!」とのことなので、ご興味ある方は是非お問い合わせを!