弱小科学系YouTubeチャンネルが渋谷のど真ん中でリアルイベントを開催するまで

皆様、こんにちは。俳優・サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太です。

今回は、以前書かせていただきましたDC1から俳優の道へ。異色のキャリアから生まれた番組「らぶラボきゅ〜」とは!?の続編です。こちらの記事もご覧いただけましたら幸いです。

さて、前回の記事のタイトルにも書かれている「らぶラボきゅ〜」とは、私が制作(プロデュース・監督・出演)している子供向けの科学系YouTubeチャンネルで、研究者や専門家の先生とQ王国の愉快な仲間たちがお喋りしたり、時には遊んだりして研究や科学について学んでいくという内容です。

先月末で番組が1周年を迎えましたので、サイエンスコミュニケーションの視点を交えながら振り返りたいと思います。科学を発信する機会のある皆様の一助になりましたら幸いです。

「らぶラボきゅ〜」1年間の軌跡

昨年4月にスタートしたこの番組。「脳と記憶」「宇宙」「生物多様性」というような月毎に変わるテーマを毎月学んでいきます。

動画は毎週更新。リモートでの撮影を基本とすることで、コロナ禍でも問題なく撮影することができました。今年1月のテーマは「古代文明」

日本ではサイエンスや科学と言うと、自然科学を指すことが多く、特にサイエンスコミュニケーターの守備範囲は自然科学の範囲内であることがほとんどだと思います。

しかし「科学」を真理の探究という奥深さや、あらゆる学問を想像できるような広がりを感じる言葉として使った方が素敵ではないか。という少々頭でっかちな持論がありまして、番組でも人文社会科学系、いわゆる文系分野を取り上げることができたのは、自分の中で大きな意味をもつ出来事でした。

また、「古代文明」月間の最終週では念願のロケを実施。

半年以上リモートで、出演者同士、スタッフ同士も対面で会ったことがないような状況で番組を制作し続けてきましたので、ロケが実現できたことは作り手としても、出演者としても、なかなか感慨深いものがありました・・・

そしてついにこの度、「らぶラボきゅ〜」リアルイベントの開催が決定しました!なんと会場はミヤシタパーク。渋谷のど真ん中での開催です!

リアルイベントのゲストは過去にYouTube番組にも出演いただきました竹内倫徳先生です!

こちらのイベントは天狼院カフェSHIBUYAさんとの共催で、大人も子供も、親子でも、お楽しみいただけるイベントです!

YouTube科学番組「らぶラボきゅ〜」リアルイベント〜脳と記憶を楽しく学ぼう!!〜

現在、リアルイベントに先駆けて、パネル展も実施しております。「らぶラボきゅ〜」の楽しみ方がわかり、世界観を感じていただける展示になっております。

4月16日よりリアルイベントの会場「天狼院カフェSHIBUYA」で展示中です!

ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひパネル展やリアルイベントにお越しください。アウトリーチ活動に熱心な研究者の皆さま、サイエンスコミュニケーターの皆様も是非!

YouTubeとしての「らぶラボきゅ〜」

さて、ここまでご覧いただきますと「らぶラボきゅ〜」の一年が順調な歩みに見えるのではないかと思います。しかし、実際は全くそうではありません。

ここで、YouTubeの最も重要な指標「再生回数」を見ていきます。

第一回の動画の再生回数が2,783回。

そして、最新の動画の再生回数が・・・197回。

激減しております!!

原因は大きくわけて2つ考えられます。1つは「テレビ的な作りをしていること」です。実は「らぶラボきゅ〜」はそもそもテレビ番組を想定して作成した企画書がベースになっています。

約3年前に作成した企画書です。NHK E◯レの番組を想定して作りました!

将来こんな番組が作れたらいいな、こんな番組に出演出来たらいいな、という妄想により産み落とされた企画書です。それをYouTubeで実現したのが現在の番組というわけです。それ故、YouTubeなのにテレビっぽい作りになっているのです。

編集面だけでなく、キャラクターデザインやアニメーションなどのクオリティーにもこだわっておりますが、なかなかそこがYouTubeの再生回数には繋がりませんでした。それどころか、こだわりのアニメーションが冒頭19秒間流れるのですが、その時点で約50%の方が動画から離脱しているという悲しい現実があります・・・

50%の視聴者を離脱させるアニメーション!!

最初の5秒で掴めるかで決まる、と言われているYouTube界の常識は、映像のクオリティで覆せるものではありませんでした。

そして、もう一つの原因は「正しさにこだわり過ぎたこと」です。科学を届ける上で、できる限り正しく伝えたいという想いがあり、そのことにこだわって番組を作ってまいりました。そこでの葛藤については、我らがひろゆきさんの言葉をお借りします。

事実をきちんと伝えようとすると面白くないんですよ。で、面白くわかりやすく伝えると再生数は伸びるんだけど、嘘が混じるんですよ。

【ひろゆき】運のいい人っているよね。科学的根拠ないけど。。LA VIRGEN MADRID LAGERを呑みながら 2020/01/16 J08

科学を正しく伝える以上「絶対」「必ず」といった強い断定口調は使えなくなりますし、補足や注釈が多くなり、簡潔に伝えることが難しくなります。

また、「〜だと思う」「〜するべきだ」というような言葉を並べた主観的な表現も使いづらくなりますが、それによって相手の心に言葉が響きにくくなります。

科学的な正しさはとても大事ですが、それに対して自分はどう思うのかというのは当然表明して良いですし、わかりやすくする上で、子供向けの場合は特に擬人化、比喩表現なども時に有効になります。

譲れない境界線はどこにあって、より多くの方に届けるためには、興味を持っていただくためにはどのような工夫が出来るのか、論文や専門家同士の対話には現れない部分にこそしっかり向き合っていかなければいけないと感じました。

一方で「らぶラボきゅ〜」を今までこのような方針のもとで制作してきたことは、悪いことばかりではありませんでした。

リアルイベント開催のようなYouTubeの外の世界に飛び出していこうとした際には「信用」がとても重要です。極端な話、どれだけ数字を持っている炎上系YouTuberでも企業から声がかかるようなことはあまりないと思われます。

企業から声がかからない炎上系YouTuberのイメージ図

「らぶラボきゅ〜」のYouTubeは、安心・安全の内容になっているからこそ、今回のイベントが実現できたと感じています。会社に属さず、屋号も持たずに活動している自分が企業や行政、社会から信頼していただけるというのはとても嬉しいことです。

また、YouTube上では活かしきれていないイラストのクオリティや世界観も、パネル展ではその存在感を発揮してくれています。

輝ける場所が見つかったキャラクターたち。YouTube上より生き生きしているように見えますね(非科学)

これからもリアルとオンラインを行き来するサイエンスコミュニケーションを模索し、挑戦し、その結果はまた皆さまにお伝えできればと思っています。

科学系YouTubeのこれから

これまでの経験も踏まえて、これからの科学系YouTubeチャンネル(科学に関する動画)は二極化していくのではないかと考えています。

まずは、YouTube上で結果(数字)が出せる動画を目指す方向性。科学的な正しさとバランスをとりながらも多くの方に届けられるのはやはり理想であると思います。ここで、オススメのチャンネルをいくつかご紹介します。

ご存知の方も多いかと思いますが、それが人気の証明ですよね。知名度イズ正義!

  • ゆっくり解説 × 科学(生物) 〜親しみやすさと安定感ならピカイチ〜

へんないきものチャンネル

  • ゲーム配信 × 科学(生物)〜エンタメに科学をプラス〜

ゆるふわ生物学 Ch.

  • 分野特化型でコアファン獲得

河江肖剰の古代エジプト

  • 映える実験で心を掴む

GENKI LABO

これからYouTubeで科学を発信していこうという方は、どれも必見のチャンネルだと思います。そして、可能であればこのような成功事例を踏襲されることをオススメします!

しかしもう一つの戦略として、YouTube上では無理に数字を追いかけず、様々な企業や団体等と繋がることで、YouTubeを起点として外へ展開していくことも考えられます。

「らぶラボきゅ〜」でも現在リアルイベントの他、科学館やNPO団体、行政の施設などからお声がけいただいておりまして、これから様々なコラボレーションを展開してまいります。

また最近の事例として興味深いのは、学術系VTuberユニット「まなぶい」によるコンテンツ「学術系Vtuberと考える”未来のバーチャル社会”」です。

こちらは、経済産業省のSTEAMライブラリーに採択され、現在STEAMライブラリーのサイト上で公開されている他「まなぶい」メンバーのYouTubeチャンネルでも動画が公開されています。

学術系Vtuber「まなぶい」の皆さんは実名も顔出しもされていないわけですが、普段投稿されている動画は科学的にしっかりリサーチされた内容で、とても信頼できるものです。だからこそこのような事業へと繋げていくことができるのだと思います。

YouTubeを活用しつつも外に展開していくというのはまだまだこれから探っていける部分がたくさんありそうです。そう、YouTubeはバズることが全てではないのです!!

「らぶラボきゅ〜」が一つのモデルケースになれるよう、日々試行錯誤を重ねております!

とはいえ、バズりたい・・・

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