[コロナ禍の2年間]古瀬先生とウイルス学の情報発信を振り返る

2020年の1月にダイヤモンドプリンセスでの集団感染が発覚してから2年。
2021年も去年に引き続き、新型コロナウイルスと共にあった一年でした。

この2年間で、特に目立ったのは専門家による情報発信です。ダイヤモンドプリンセス号では乗船した岩田先生がリアルタイムで情報発信をし、政府分科会や厚労省アドバイザリーボードからは尾身先生、クラスター対策班からは西浦先生などがメディアやSNSを通じて積極的に発信をしています。

これまで日本においてメディアで積極的に発信する研究者は落合陽一先生やスプツニ子先生などの元々メディア関係に強い先生や、山中先生や本庶先生などのノーベル賞受賞者が中心でした。しかし、コロナ禍においては「一般の研究者」が強い影響力を持って発信していたのは大きな特徴です。

この記事では、コロナ禍の2年間、SNSやマスメディアで積極的に発信をしていた感染症疫学、ウイルス学研究者の古瀬先生と、サイエンスコミュニケーターの北白川かかぽさん、ウイルス学若手ネットワークの小嶋さん、多賀さんをお招きし、コロナ禍におけるウイルス学の情報発信を振り返っていこうと思います!

参加者

古瀬 祐気先生

感染症疫学・ウイルス研究者。大学を休学し渡航したフィリピンで感染症研究に目覚める。HIVやインフルエンザウイルスに関する基礎研究のほか、WHOの要請を受けアフリカでエボラのアウトブレイク対応に従事。コロナ禍においてはクラスター対策班に所属。香港出身。

北白川かかぽさん

リサーチャー系Vtuber。幅広い分野で活躍するサイエンスコミュニケーター。学術系VTuberユニット「まなぶい」の一員として、経済産業省の「未来の教室」プロジェクトのSTEAMライブラリーではVTuber教材統括責任者/教材制作アドバイザーを務める。

ウイルス学若手ネットワーク

新学術領域研究「ネオウイルス学」に参画する若手研究者により結成。​ウイルスに関する幅広い分野のキャリア初期研究者(学生、ポスドク等)の長期的な人脈形成、研究促進を目指し、​さまざまな活動を行っている。今回は理化学研究所 特別研究員の小嶋 将平さん東京医科歯科大学 ウイルス制御学分野 博士課程の多賀 佳さんが参加。

くまがい

tayo magazine 編集長。ウイルスのこともサイエンスコミュニケーションのことも何もわからない。

コロナ禍で出てきた専門家達

くまがい: まず、古瀬先生に声かけた理由に以下のツイートがあります。活発なメディア登壇もありTwitterでもすごい勢いでフォロワー増えてるかと思うのですが、まずコロナ禍でのSNSコミュニケーションについてお話しできればと思います

古瀬先生: メディアに出てる専門家の中ではフォロワー少ない方じゃないですかね?西浦先生とか岩田先生の方がすごい*ですよね。

*編集部注: 記事執筆時点で京都大学西浦先生のフォロワーは11.8万人、神戸大学岩田先生は20.8万人、古瀬先生は1.2万人。

くまがい: コロナ禍でフォーカスされた研究者の方々は多々いるかと思うのですが、元々業界ではみなさん有名だったんですか?

古瀬先生: 皆さん元々業界では有名だった人です。「怪しくない側」では、コロナで急に出てきたような人は居ないです。逆に、元々学会などで交流もあったきちんとしたウイルス研究者であっても、新興感染症やコロナウイルスが専門でない方が今回の新型コロナに関して怪しい発言をしてしまっていることもあります。

かかぽさん: 間違った発信をしていても研究者であれば議論ができると思うんですが、そういう方々は質問にはちゃんと答えてくれるんでしょうか?

古瀬先生: 来る質問に全部答えることは僕でもできないので、それは難しいんじゃないですかね。

くまがい: コロナ禍に関してはノーベル賞受賞者の山中先生や本庶先生もかなり積極的に発言していますよね。

古瀬先生: 山中先生はコロナ禍の初期ではマラソンするときもマスク付けましょう、と安全サイドに寄り過ぎた意見でした*。本庶先生が主張していたPCRの拡大は、西浦先生などとは異なる見解です。どちらも医師ですが、感染症の専門家ではないので、分野での主流とは異なる考え方も見受けられました。当然、世間的な信頼度は僕や西浦先生よりもノーベル賞受賞者の方が高いので、難しいところです。

*古瀬注: ただし、その後にアルファ→デルタ→オミクロン株とウイルスの伝播性が上昇しており、現在もこの意見が本当に過剰かどうかは議論の余地がある。

くまがい: 「あいつノーベル賞受賞者に喧嘩売ってるぞ!」みたいな見え方になっちゃうと、意図していない受け止められ方しそうですし、フラットに議論することも難しいかもですね。山中先生に関しては自身でwebサイトを立ち上げたりもしていますね。

古瀬先生: 山中先生のHPは元々は海外のデータや文献を紹介するだけだったんです。でも、だんだんメディア登壇などで自分の意見を発信するようになってきた。何がエビデンスで、何が私見なのかはきちんと分けないといけない。これは僕も同じで、自分の意見を声を大きくして言うよう変化してしまっている自覚があるので、気をつけたいところです。

くまがい: 古瀬先生が発信に際して気をつけていることってどんなところですか?

古瀬先生: 例えば、「ワクチンは素晴らしいです、こんないいことがありますよ!」はエビデンスを示しながらよく言っていますが、「ワクチンを打つべきです、打ってください!」とは実は一回も言っていないです。ひょっとするとテレビとかで、話の流れや勢いで言ったこともあったかもしれませんが、少なくとも文字に残る形ではしていないと思います。

かかぽさん: 反ワクチンの人が「ワクチン打つなー!」とはっきり主張するのに対して、「ワクチンは素晴らしいです!」だと、主張の強さで負けちゃいそうですね。。

古瀬先生: 「自分ごととして伝える」とか、コミュニケーションのテクニックみたいなものは色々有って、私もたまに使うんですが、科学者がやるべきことかは微妙ですね。僕が科学の発信もして、さらに相手の心に入り込むことをテクニックとして持っていたら、いやらしいでしょ。笑
なので、僕達は科学の発信だけして、それを落とし込むのは別の人がやるべきなのかな、と思います。

科学者とメディアとサイエンスコミュニケーション

小嶋さん: 一般に向けた発信のために、広報やサイエンスコミュニケーションの専門家を入れることはできないんでしょうか

くまがい: そういう専門家ってそもそも日本にいるんですかね・・・?かかぽさん、どうでしょう。

かかぽさん: サイエンスコミュニケーションは色々あって、子供たち相手にサイエンスの楽しさを伝えるところから、コロナ禍においてはリスクコミュニケーションまで入ってきますリスクコミュニケーションに強くて、非常時に動ける人、となるとほぼいないんじゃないですかね・・・?
サイエンスコミュニケーターは最近増えてはいるのですが、余剰人員がどこも少ないので、非常時の対応は難しそうです。

古瀬先生: 日本のサイエンスコミュニケーションは基本的にベーシックサイエンスの発信ですよね。コロナウイルスはどんな構造で、細胞に入り込むとどう増えるかとか、ワクチンの作用機序とか。
一方、実際ワクチンを一万人に打ったら、そのうち何人が発症して、、とかの部分を発信できる人はほぼいないですね。アプライドサイエンス、パプリックヘルスに関する発信ができる人がとても少ない
そもそも、疫学とか統計学って直感的じゃないんですよね。有名なところだと同じクラスに誕生日一緒の人がいる確率が結構高いとか、モンティ・ホール問題とか。数式見れば分かるんですが、直感とはかなり離れます。説明する側としても一時間の講義でなら説明できますが、ニュースやツイッターで説明できるかというと、そもそも難しい。

かかぽさん: 数式が絡むサイエンスコミュニケーションは難しいんですよね・・・。書店の自然科学書は数式が1つ増えるごとに売り上げが半減するとか言われたりします。

くまがい: 日本のサイエンスコミュニケーター、どうしてもさかなクンさんとかでんじろう先生とか初等教育寄りのイメージがあるんですけど、そもそも大人に科学を伝える人っているんですかね?

かかぽさん: 科学ジャーナリストや、新聞の科学記者とかですかね。

くまがい: 古瀬先生はめっちゃ科学ジャーナリストに取材受けたと思うんですが、どうでした?ぶっちゃけ、変な人もいますよね?

古瀬先生: 変な人の方が多いです。

一同: 笑

古瀬先生: 「政府の批判してくれ」っていうのが見え見えの質問とかね。「あそこで緊急事態宣言解除するなんてあり得ないですよね!」みたいな。

くまがい: 下手に答えるといいように切り取られて見出しにされるやつだ・・・!

古瀬先生: とはいえ、ABEMAやBuzzFeedみたいなネット系メディアだったり、一部のテレビ番組や新聞など、親和性の高いメディアのジャーナリストは僕らの発信を強く手助けしてくれます

くまがい:リベラルなメディアの方が科学報道は強いんですかね?

古瀬先生: そうだと思います。まず、科学者って基本的にリベラルじゃないですか。極端に左に寄っていることもあまりないですが、大多数の人は左のど真ん中から中道左派って感じですよね。その場での実務ではなく普遍的な原理を探求する人たちなので。人種差別はない方がいいのはもちろんですが、貧富の格差なんかも小さい方がいいと思っている人が多いかも。
僕自身は科学者はそうあるべきだと思うんですが、科学ジャーナリストも基本的にはリベラルなので、リベラル x リベラルの発信になっちゃうんですよね。なので、保守寄りの人たちからするとなんだか嫌な世界に見えてしまう。

くまがい: 実際、相性の悪そうなメディアの依頼は断ったりしているんですか?

古瀬先生: 例えば朝昼のワイドショーとかは出ませんでした。芸能人司会者みたいな人にいじられて終わるんだろうなと思ってたので。そういうところには学会など専門家集団の主流とは異なる考え方を持つ人が、喜んで出ていく。そういうワイドショーだと、番組としての主張が決まってるケースも多いと思います。

くまがい: メディア登壇の際の注意点とかって、日本人研究者はあまり学ぶ機会がないようにも思います。

古瀬先生: 僕の個人的な話としては、WHOでメディアコミュニケーションのトレーニングを1週間受けています。服装とか、話し方とか。

小嶋さん: 実際、役立ちました?

古瀬先生: 内容を全て覚えて実践できているわけではないのですが、メディア登壇後に反省する時の指針にはなっていますね。

くまがい: トレーニングを受けていると専門家の発信に対して、こういう発信は違うな、とか思ったりするんですか?

古瀬先生: それはあんまりないですね。そもそも今回のコロナのケースに関しては、発信の仕方が問題である事があんまりないです。間違った内容を発信している人がいっぱいいるのが問題なので、ちゃんとした人がちゃんとした発信をできていたからといって状況はあまり変わらない気がします。

くまがい: 「こういうことがあれば状況は違ったのではないか」と思うこととかってありますかね?

古瀬先生: 例えばワクチン接種に関しては政府がもう少し強く発信してくれていれば、とは思いました。ワクチンは任意接種ですし、打たない権利も保障されているんですが、実際には予防接種法の第九条で国民に努力義務は課されている。法律に書いてあるんで、言っていいと思うんですけど、その点はあまり発信されなかったように思います。

参考:厚生労働省の努力義務に対する説明

今回の予防接種は感染症の緊急のまん延予防の観点から実施するものであり、国民の皆様にも接種にご協力をいただきたいという趣旨で、「接種を受けるよう努めなければならない」という、予防接種法第9条の規定が適用されています。この規定のことは、いわゆる「努力義務」と呼ばれていますが、義務とは異なります。接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただくことになります。

https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0067.html

多賀さん : そもそも、コロナ禍で科学者の発信が上手くいってる国ってあるんですか?

古瀬先生: ないですね。というかサイエンスコミュニケーションなどの問題ではなくなってきていて、「人はどう生きるべきか」とかそんなレベルの話になってますよね。

くまがい: イデオロギーの問題ですよね。トランプ派とバイデン派の集会でマスク率が違う、とか。

かかぽさん: 福島第一原子力発電所事故の事例を調べたことがあるんですが、社会構造の問題という側面が大きいんですよね・・・。コロナ禍も事情は似ていると思うんですが、構造の問題なのでサイエンスコミュニケーションで解決できるお話ではないような気もします・・・。

古瀬先生: とはいえ、日本だと実際には対象者の9割はワクチンを打っているので、ワクチンに関するコミュニケーションは成功しているとも言えます。インターネット見てるといろんな意見あるように見えて極端なものが目立ちはしますが、実際には少数派ですよね。

世間からの反応

座談会の様子

かかぽさん: では古瀬先生の思う、コロナ禍での発信の問題ってなんなんでしょう?

古瀬先生: 古瀬さんの心が削られることですかね笑
僕如きでも毎日二桁の「○ね」っていうメールがきます。DMとか、手紙とかも含めて。電話もかなりかかってくる。尾身先生とか西浦先生は桁が違うんじゃないですかね・・・僕ではないですが、銃弾が送られてきたというケースも聞きました。

くまがい: やばすぎる。研究者は連絡先とか電話番号とか全部公開されているので自衛が難しいですよね。

古瀬先生: 「コロナ禍を利用して出世しようとしやがって!」とかもよく言われるんですが、いろいろ疲れたり、コロナ禍で思うこともあったりして、いまは地方で臨床に携わっているので、むしろ逆です。

くまがい: あまりに辛い話ですね・・・ウイルス系の研究者ってみんなそれぐらいダメージ受けてるんでしょうか?

古瀬先生: ウイルス系だと自分と押谷先生河岡先生脇田先生ぐらいですかね?ウイルス学の側から表に出たのはこの四人ぐらいで、あとは疫学者か公衆衛生の専門家が多いです。尾身先生は公衆衛生、西浦先生は疫学が専門ですし。

くまがい: 逆にポジティブなことってあったんでしょうか?

古瀬先生: 有名にはなりましたね。

くまがい: 絶対嬉しくないでしょう?笑

古瀬先生: 一日20件「ね」と言うメールが来る代わり、月に一回ぐらいファンレターも来ます

多賀さん: 帳尻合わないですね!!笑

くまがい: ポジティブにしろネガティブにしろ、めちゃ極端な意見しか届かないんですね・・・

古瀬先生: あと僕は元々長髪で、ちょんまげだったんですが、髪切った時にアベマTVでケンコバに「先生、文明開化っすか?」って絡まれたのは嬉しかったですね。一生自慢できる。

くまがい: 古瀬先生といえば長髪だと思っていたんですが、髪はなんで切ったんですか?メディア受けとか考えたんでしょうか。

古瀬先生: いや全然関係ないですね。かんざしが刺したくて三年間髪伸ばしたんですが、実際にやってみたら似合わなかったんで切りました。目立つ見た目をしている方がメディアには喜ばれます。宮田裕章先生とか。

ウイルス学への市民参加

くまがい: それ以外のインセンティブで言えば、例えば積極的な発信によってcitizen scienceCivic technologyが盛り上がるとかもっとあってもよかったのかな、とも思います。東京都のコロナ対策サイトがGitHubでプルリクを受けつけるといったCivic technology的な動きはコロナの初期は色々有った一方、下火になっちゃった印象なんですが。

古瀬先生: 結局、やられたのってデータの可視化だけなんですよ。例えばハッカソンとかやったとしても、問題設定ができないと思います。コロナウイルスのレセプター結合部位とかは情報学的に解けますが、そんなのは研究者がやった方が早いし。

くまがい: 古瀬先生は飲み会のリスクチェッカーとか作ってましたが、あれをスマホアプリにするとかするとかの展開はなかったんですかね?

古瀬先生: あれは確かに誰かに手伝ってもらえれば嬉しかったかもです。未だに自腹で毎月6000円サーバー代払ってますし。

くまがい: マジすか、寄付とか集まらなかったんですか?

古瀬先生: 最初はちょっと寄付募ったんですけど、逆にめっちゃ集まるのが怖くて一円も集まってない段階ですぐ閉じました。確定申告とか面倒になりそうだし。

くまがい: なるほど。。勿体ないような気もしますが、まぁ税金関係も個人で対応するのそこそこ手間ですからね・・・。

小嶋さん: コロナ禍の初期にあった、市民参加のデータ可視化の流れが今ではなくなっちゃったのはなんでですかね?例えば国際的にはNextstrainのような研究者向けのデータ可視化サイトがありますが。

古瀬先生: Nextstrainのほかにも、ゲノム情報をまとめるっていう類似した取り組みは世界中でやっているんですが、ほとんどは各国の感染症研究所相当の組織が主導しています。データの権利関係とかがあるのでいろんな人巻き込んで、っていうのは結構難しいですね。例えば日本だと、地方自治体で読んだウイルスゲノムの権利は自治体に所属します。

くまがい: 自治体所属なんですね!知らなかった・・・

古瀬先生: COVID CGというサイトで面白いデータが公開されていて、日本はコロナウイルスの全ての検体に対してゲノムを読んでる割合は1/10と世界的にも高く、世界5位です。一方、読んだゲノムを発表するまでにかかる期間は平均二ヶ月ぐらいかかっていて、世界でもかなり低水準です。自治体管理なので、いろんなハンコをもらうのに時間がかかっているんだと思います。国際的には、データを意図的に隠していると誤解されかねない。韓国とかも似た状況ですね。

科研費とコロナ禍

くまがい: なんかあまりポジティブな情報が出てこないので、いっそネガティブな部分を掘り下げようと思います。笑
厳しいメールが来る以外で、コロナ禍で被った実害ってどんなのがあるんでしょう。

古瀬先生: これを読んでいるみなさんにはどうでもいいことかもしれませんが、コロナ関係の仕事をしすぎて、コロナ前に取ったAMED*の仕事があんまり進んでなくて、それで怒られます。まぁ向こうからしても、お前がコロナの研究するなんて聞いてない、やるって言った仕事をしろ、となるのはしょうがないですよね。

*編集部注: AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)。医療分野の研究開発プロジェクトに関し予算を出している。

くまがい: そこの融通効かないの、勿体無いですね。。。そもそも一年前に研究計画申請して予算獲得、という科研費の方式だと、COVID-19の研究って不可能じゃないですか?

古瀬先生: コロナ関係の研究費は2020年の5月ごろに出たのでだいぶ早かったんですが、それでも最初期の研究は難しいですよね。

*編集部注: 例えばワクチン開発の予算は2020年の4月に公募が行われ、6月には採択課題が発表されている。めっちゃ早い。

くまがい: やっぱり運営費交付金の割合が少なく、競争的資金ばかりの状況だと、新興ウイルスのパンデミックに対してフレキシブルに取り組み辛いとかってあるんでしょうか?

古瀬先生: それはあるでしょうね。そもそも「新興ウイルス感染症」の専門家は日本に10人もいないんですよ。ヘルペスの研究者、インフルエンザの研究者、とかはいますが、「新しく流行っているウイルス」を扱う研究室って、東北大の押谷先生東大の河岡先生北大の高田先生長崎大の安田先生と、ぱっと思い付く範囲だと日本に4つぐらいしかなかったんです。コロナ禍で新たに東大の佐藤先生が参入しましたが、佐藤先生はコロナ前はそういう研究スタイルではなかったです。そこから、いまは日本のコロナ研究をリードする立場になっていてすごいですよね。

*編集部注: 佐藤先生には、記事の最後に告知するVRイベントで招待講演をお願いしております!

くまがい: コロナウイルスはHIV、インフルエンザ、ヘルペスなんかと比べると割とニッチな研究対象ですよね。元々やっていた人も少なかったんでしょうか?

多賀さん: コロナウイルスは獣医学系のウイルス学では結構メジャーな研究対象なんですが、ヒトのパンデミックに際してそういうところが動くか、というと話が別かも知れません。

くまがい: ウイルス研究やっている研究室は基本的に医学系か獣医学系、たまに理学系という状況かと思うんですが、医学系と獣医学系のウイルス研究って違うんですかね?

多賀さん: 私は元々獣医学系から医学系に移ったんですが、スタンスは違う気がしています。分子メカニズムなどの基礎ウイルス学は医学系の方が進んでいる印象です。獣医学だと公衆衛生とか疫学に寄った研究室が多い気がします。基本的には、食肉検査などヒトの公衆衛生に関することや、畜産農家さんが嬉しいことをするのが獣医学系なので。

古瀬先生: 医学系か獣医学系かは単に所属組織の問題ですが、現在の所属が医学系のウイルス研究者でも実際は半分近くが獣医出身だったりします。

多賀さん: 獣医学部のある大学って日本に17しかなくて、獣医師免許を取る人は年間1000人です。そんな小さい業界の中で、ウイルス自体がテーマとしてはマイナーなので、かなり狭い世界ですよね。

くまがい: 尾身先生にしろ古瀬先生にしろ、コロナ禍では特殊なキャリアの方が活躍している印象があるのですが。

古瀬先生: そもそも、日本で生まれ育つと感染症のプロになり辛いんですよ。ワクチンみんな打ってるし、公衆衛生も発達していて清潔なので。尾身先生は東アジア~東南アジアでポリオの仕事、押谷先生はSARSの仕事をしていますし、僕はアフリカでエボラの仕事をしました。そういう経験のある人は日本の学会では少数派ですよね。

くまがい: そういう人材って育てようと思って育つものなんですかね?尾身先生ってすごく特殊なキャリアで、あぁいうことができる人を育てることって難しい気もするんですが。

古瀬先生: キャリアとして難しいのはもちろんですが、それ以上に尾身先生は特別な人だと思います。尾身先生は丁寧にゆっくり、同じことを何回も伝える。簡単なことのようで、あれができる研究者は少ないと思います。また、メディアに出るような研究者と話すと、あぁストレス感じてるんだな・・・、と思うことがあるんですが、尾身先生はいつでも安定しています。例えば10年後に別のパンデミックが起きたとき、誰があそこに立つべきなのか、とか考えることはありますね

くまがい: 誰なんですか?笑

古瀬先生: 難しいですね。尾身先生は政府に寄り添った立ち位置の人でもありサイエンティストでもありますが、もしかしたらそこは次は分けるべきなのかもしれないですし。

終わりに

くまがい: 最後に、改めて古瀬先生が発信の際に重要だと思っていることを教えてください。

古瀬先生: 単純ですが、「誠実であること」「真摯に話すこと」「自分の意見と客観的事実を明確に分けること」ですかね。あんまり、誰かを翻意させようとか打ち負かそうとか思ってないかもしれません。SNSのスタンスで言えば、バズレシピのリュウジさんの以下の考え方は近いです。

くまがい: なるほど。あくまで情報発信が仕事で、飲み込むかどうかは相手次第ということですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました!

ウイルス研究者に話を聞こう

いかがでしょうか。筆者としては、今回の記事が皆さんにとってウイルスの研究についてちょっと突っ込んで調べてみるきっかけになれば幸いです。

古瀬先生はサンタクロースが病気になると、何が起こるのかといったジョーク論文を出していたりするので、導入としてはそんなのも面白いかも知れません。
個人的には、ウイルスの進化アルゴリズムの研究がお気に入りです。臨床もWETも数理も出来てメディア対応もできる古瀬先生、やっぱスゴイ。

とはいえ、やはり最先端の研究に触れるのは初学者や分野外の人にとっては難しいものです。

そんな訳で、株式会社tayoでは、誰でも気軽にVR空間でウイルス学研究者の話が聞けるイベントを開催予定です!

今回の記事でも名前が上がった東大の佐藤佳先生の招待講演のほか、日本全国から20名以上の大学教員をお招きしており、VR空間上で研究の話を聞くことができます

学会のようなプロフェッショナルな方の集まる場だけでなく、以下のような多様な人の参加を歓迎する、一風変わったサイエンスコミュニケーションのイベントにしたいと考えております。

  • ウイルス学分野での大学院進学を考える学部生や修士学生
  • 正しい知識を得たい高校の先生
  • 大学院で学び直したい社会人
  • 社会貢献したいOSSエンジニア
  • ウイルス分野に進学したい大学生/高校生
  • 研究者とのネットワーキングを図りたい企業の方
  • ウイルス学に興味のある出版社の方
  • なんとなく興味のある文系学生、他分野の研究者

学生の参加は無料ですので、皆さんの積極的なご参加を歓迎いたします!

先生方のご専門も、医学系/獣医学系/理学系と様々。海洋ウイルスや植物ウイルスのお話もあります。ウイルス学は生命科学において今非常にアツい分野なので、生命科学系で大学院の外部進学先を決めかねている方々にとってはかなり面白いイベントになると思います!

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