[企業研究者インタビュー]バイオインフォマティシャンの民間就職って実際どうなの?

どうも、新年いかがお過ごしでしょうか。

僕はおおむね元気です。

年末年始はアカデミアでは学会シーズン。僕は今年度「生命情報科学若手の会」とか「ウイルス学若手ネットワーク」とかに参加させてもらいました。

若手と飲んでいるとよく聞くのが、「バイオインフォの就職って実際どうなん?」という話です。

バイオインフォマティクスやってる人にはWETもやる人からDRY専門の人、オミックスが専門だったりアルゴリズムに強かったり画像解析が専門だったりと結構いろんなタイプが存在している割に、民間のポストの情報があんまりないので「自分のスキルセットで民間就職の選択肢ってあるの・・・?」みたいなところが結構分かりづらいのかと思います。

個人的にも最近バイオインフォマティクス分野の優秀な人たちが民間のIT企業でエンジニアになってしまう例をいくつか観測しており、ただでさえ少ないバイオインフォマティシャンがバイオ関係ないエンジニアになっちゃうのはちょっと寂しく感じていたところ。

そんなわけで今回は、「アカデミアに非常に近い民間企業の研究者」として、エルピクセル株式会社の河合さんにインタビューさせていただくことになりました。

この記事を読むとハッピーになれる人

・生命科学系の学部生/院生/若手研究者

・特にWETの実験とDRYの情報解析の両方に興味がある人

参加者

河合さん: 東京大学で成体神経幹細胞の研究で博士号を取得。アカデミアでの特任研究員を経て2017年にエルピクセルに入社。機械学習エンジニアとして大手製薬企業とのプロジェクト等を担当。

くまがい: 東京大学で博士号を取得した後、民間のデータサイエンティストや国研のポスドクを経て起業。WETのラボからバイオインフォマティクス分野に移ったので河合さんに勝手にシンパシーを感じている。

 

アカデミア→民間のベンチャーでの研究員へ

本日はよろしくお願いします!いきなりですが、大学院時代はどんな研究してたんでしょうか?

大学院の頃は成体神経幹細胞のホメオスタシスをテーマに、WETの実験をしていました。修士以前には、プログラミングの経験もありませんでした。

現在は画像解析を用いた、主に情報系のお仕事ですよね。プログラミングはどのようなきっかけで学び始めたんでしょう?

元々、研究では「顕微鏡をひたすら覗いてレアな現象を探す」、というようなことをずっとやっていました。二時間顕微鏡見続けて、1、2個の当たりを引ければOK、という感覚です。

3、4年ぐらいは人力で頑張っていたのですが流石に辛くなってきて、画像解析技術を用いた自動化ができないか、と思ったのがプログラミングを学び始めた直接のきっかけです。

また、博士時代に結婚したこともあり、時間的にWETの研究一本だとワークライフバランスの調整が難しいと感じていたことや、オミックス解析などの分野は既にかなり研究者も多く参入障壁が高そうな一方、画像解析は当時まだ人口が少なかったので未経験者が参入しても価値を生みやすいのではないか、と思いました。

めっちゃ戦略的に研究手法を転換したんですね!僕も培養とかやってられんなと思い博士時代に完全にDRYに舵を切ったので共感します。実際にどのように技術習得したんですか?

まず、DRYの画像処理の専門家になるというよりは、WETのラボで画像解析を行うニッチな立場を最初から目指していました。なので、DRYの専門家に師事するようなことはせず、基本的には全て独学です。

プログラミングやデータサイエンス関係の本もまともに読破したのは1冊か2冊ぐらいで、あまり体系的には学んでいません。研究の必要に応じて、タスクありきで試行錯誤しながらソフトウェア開発をしていました。

また、元々OSやハードには興味があり、趣味でジャンク品のPCを購入して修理したりしていたので、工学的な部分にある程度の適性はあったのかもしれないです。

バイオインフォマティシャンを一括りに言っても、WETのラボでやるかDRYのラボでやるかで、結構キャリア感とか求められるスキルセット違いますよね。
河合さんは大学の研究員を経てエルピクセルにご入社とのことですが、民間に移った際ってどんな気持ちだったんですか?

家庭があったのでぼんやりと就職した方がいいかもな、と思いながら、とはいえ研究したかったので完全に民間に行く気は元々なかったです。

生活のことを考えるとポスドクやりながら無理ない範囲で民間企業で副業、ぐらいがいいのかなと思い、元々は有償インターンのような形でエルピクセルに応募しました。

エルピクセルはどうやって見つけたんですか?知り合いいたとかですかね?

いや、「生物画像解析 バイト」で検索しました笑

4年前ぐらいだったので、当時そのような求人を出していたのはエルピクセルぐらいでしたね。

だいぶニッチな検索ワードですね笑
研究者の副業人材募集してるところはバイオベンチャーとかだとたまにあるので、ポスドクや博士課程学生には結構いい選択肢のような気もしています。今ならDRY系はリモートOKなところも多いですし、研究の技術身につけながら生活の安定を目指せますもんね。

はい、まさにそんな状況で、応募時点では自分のDRYのスキルもそんなに高くなかったので技術習得もできればいいな、と考えていました。

会社側としては当時あまりWET出身の人がいなかったので、そういう人を取ってみてもいいな、という時期だったようにも思います。

入社当時のエルピクセルのオフィスの様子

バイトで応募して、結局正社員で就職したと聞いていますが、そこはどんな流れだったんでしょう?

インターンの面接後、三日後くらいに内定もらったんですが、その三日間の間でもうこれは正社員で就職した方がいいな、という気持ちになったので、内定オファーの段階で正社員として参加したいと伝えました。

自分としては好きな研究ができればなんでもいいと思っていたので、エルピクセルで技術を身につけつつ、個人で外部と共同研究すればいいなと思い、正社員で入社することにしました。

カッコいい!実際に個人的な共同研究も進めているんですか?

今は会社とは全く関係なく、個人的に二件の共同研究のプロジェクトに参加しています。元ラボの先輩がアカデミアに残っているので一緒に研究しているのと、別件でご紹介頂き共同研究している案件もあります。

前者は客員研究員の身分を貰っているので、科研費の申請が可能になるなど、研究を進める上で相当助かっています。

共同研究先の研究室の様子

客員研究員いいですね!僕もアカデミアに身分残すことは検討してたんですが、思ったより大変で諦めた経緯があります。すんなり行きました?

すんなりはいってないですね笑

企業の人を客員研究員にするのは色々と複雑で、受け入れ側は結構大変だったようです。1年ぐらいはかかったと思いますが、先方の研究室が頑張ってくれました。

そうですよね・・・。今政府が博士学生のインターン奨励したり色々博士のキャリアパス改善の施策してますが、やっぱり大学側でも「民間いながらの大学との共同研究」とかカジュアルにできるようになると民間とアカデミアの人材交流がもっと生まれるような気もします。

本当に、もっと気軽にできるといいですよね。

学生のうちは自由にやれていたことが、ポスドクや企業研究者になると途端に難しくなることは多々あります。例えば、企業に入ってしまうと論文へのアクセスもかなり制限されます。企業就職して初めて気づく学生の特権は色々あるので、学生の皆さんは最大限利用した方がいいと思います。

アカデミアと民間の違い

お話し聞いていて、アカデミックキャリアの一部として民間就職している点がクールだな、と思いました。ぶっちゃけ今後、アカデミア戻る可能性あると思いますか?

研究を続けて論文を出し続けたいとは思いますが、アカデミア一本でやることは今後もないかもしれません。正直、一番の理由は金銭面ですが、会社としての仕事が結構楽しいのも理由の一つです。

お、いい話。アカデミアと比べた民間の仕事の楽しさを教えてください!

やりがいの面で言えば、解決できる課題の幅が広いことはありますね。アカデミアだと新規性のあるものしか価値が生まれませんが、世の中には新規性ないけど大切な問題も色々あり、そういう課題を解決していくのも楽しいです。

アカデミアにおいてはみんな当然のようにやっていることが民間企業では意外と価値があったりするのも面白いですね。

綺麗なお話、ありがとうございます!とはいえ、もっと泥臭い部分も突っ込みたいです笑
例えば、お仕事する上で、民間の方がやりやすいなと感じることとか。

単純にアカデミアと違って雑用少ないのはすごくいいですね。ラボのゴミ捨てとか、そんなレベルのことが結構なストレスだったので・・・。雑用に限らず、「お金で解決できることをお金で解決する」ということが民間では可能です。当たり前のことなんですが、科研費の使用用途が厳しすぎるとか、いろんな背景で、アカデミアだと結構難しいですよね。

あとは評価制度とかも大きく違うなーと思っていて、アカデミアの評価って結局論文出るかどうかのゼロイチですが、企業はもっと柔軟な評価基準を持っているのがありがたく感じることもあります。

民間ならではの得られるスキル

「アカデミックキャリアの一部として民間就職」を考えると、どんなスキルが得られるかも大事になってくるかと思いますが、その辺りどうでしょう。

単純に僕の場合は深層学習の知識がだいぶ付きましたね。弊社ではペーパーリーディングを週一でやっていたりもしますが、やはり一番大きいのは相談できる相手がいることかと思います。

画像解析・深層学習は課題の種類が多ければ多いほど強くなれる分野なので、取り組むタスクが幅広く、色々な課題に取り組むことができるのは有り難いです。

単純な技術的スキルの成長速度は、民間の方が早い可能性も大いにあると思っています。

逆に、アカデミアじゃないと伸びないスキルってどんなものがあると思いますか?

やはり予算獲得や、研究計画立案、論文執筆などの研究に必須のスキルですかね。民間でも要求されることはあるんですが、アカデミアほど機会がないので伸ばすのは難しいんじゃないかと思います。

時代的にやや語弊を招くかもしれませんが、「ボスや先輩、同僚にボコボコにされる」みたいな経験はやっぱり結構重要だと思います。民間だと、ボコボコにされることはあんまりないです笑

論文のドラフトが真っ赤になって返ってくる、みたいなやつですね。確かにあれって、経済合理性を考えるとできないかもしれないですね

一つの仕事を100%のクオリティまで引き上げることに時間を使えるのはアカデミアのいいところなので、結果に対する執着心みたいなものはアカデミアで身につけると良いのではないでしょうか。

エルピクセルの魅力


現在のエルピクセルのオフィスの様子

本記事はエルピクセル様の求人広告の一環なので、エルピクセル様の良さに関してもお伺いしておきましょう。

最初は医療系の案件が多かったのですが、会社が大きくなるにつれて製薬系含め案件の種類が増え、色々な背景知識を仕事に活かしやすくなってきたと感じます。

エンジニアが営業と一緒に直接クライアントと話す機会も多く、課題のヒアリングから解決策の提示、実際の解析まで全てに関われるので、「ただ与えられた仕事をしている」訳ではなくちゃんと「顔の見える顧客の課題解決をしている」実感があるのは良いですね。

なるほどです!仕事の幅が広いのは、ベンチャーならではの魅力かも知れませんね。具体的には、どんな人がエルピクセル向いていると思いますか?

やっぱり、コンサル的なことができる人ですかね。

「データそのもの」「機械学習そのもの」だけでなく、「どういう価値をもたらすか」の部分に興味が持てる方がいいと思います。

クライアントには医療系や製薬系の企業や研究機関が多いので、ライフサイエンス、生物に関して強いドメイン知識とモチベーションを持ちつつ、画像解析の技術を学びたい人にはとても良い職場なのではないでしょうか!

終わりに

「アカデミアか民間就職か」、これはアカデミアにおいては「究極の二択」と捉われがちですが、民間就職しながら研究も続ける「第三の選択肢」ももっと広まるといいな、と思いました。

そのような選択肢を検討する上では、大企業に比べ比較的働き方の自由度が高い傾向にある大学発のバイオベンチャーなどは有力になりそうです。

エルピクセルでは画像解析の研究者を募集しておりますので、興味ある方は是非カジュアルにお話だけでも聞いてみるのは如何でしょうか?

【機械学習エンジニア】医療画像・ライフサイエンス画像のビッグデータ解析をお任せします!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です