中学1年生のウイルス研究者インタビュー

14歳で史上最年少でプロ棋士になった藤井聡太さんなど、若い才能は衆人の目を引くものです。

20歳で早逝したガロアや、10歳で数学オリンピックのメダルを獲得したテレンス・タオなど、学問の世界では数学分野などには特に若い才能が多いように思います。

一方、どうしても実験機器などへのアクセスが必要になる実験科学の分野では若くして活躍するのは困難です。

しかし、2019年には高校3年生が1st authorとして環境DNAを用いたサンショウウオの分布調査の研究をEnvironmental DNA誌に発表するなど、実験科学においても若者の活躍が目立つようになってきました。学会などで設けられる高校生のポスター発表の完成度に驚かされるようなこともしばしばあり、負けてられないと襷を締め直す研究者の方も多いと思います。

「中学生のウイルス研究者」との出会い

2020年、私はとあるウイルス学系のオンライン学会に参加しておりました。

少し遅れてオンライン懇親会に参加したところ、なにやらオンライン上に人だかりができています。その中心にいるのは、かなり若い人のようでした。

分野にもよりますが、40歳ぐらいまでは平気で若手と称される研究業界。
学会の参加者も基本的には一番若くても修士学生であり、学部生が学会に参加していると少し驚く、ぐらいの世界です。

しかし、人だかりの中心にいたのはまさかの中学一年生。しかも、堂々とウイルス学に関するマニアックなトークを若手研究者たちと繰り広げています。
「研究者」という言葉の定義は曖昧ですが、ここでは彼をあえて研究者と呼ばせてもらいましょう。

「中学生のウイルス研究者」という衝撃的な存在が何故生まれたのか?
本記事では、「小さなウイルスマニア」さんへのインタビューを通してその背景に迫っていきたいと考えています。

インタビュアー:
くまがい(tayo magazine編集長)
みかみん(ゆるふわ生物学チャンネル)

インタビュイー:
「小さなウイルスマニア」さん

編集部注: 「小さなウイルスマニア」さんはインタビュー時点では中学一年生でしたが、2021年5月現在では中学二年生です。

ウイルスとの出会い

– 本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、ウイルスにハマったきっかけをお聞かせ願えますでしょうか?

小学二年生のときに西アフリカでエボラの大流行がありました。そのときニュースで流れたTEMの電子顕微鏡写真がすごく綺麗で、そこからハマった感じです!拡大印刷して部屋に飾って、眺めたり小学校のみんなに自慢したりしていました。

エボラ出血熱ウイルスの走査型電子顕微鏡写真 doi:10.1371/journal.pbio.0030403


– 急にすごい話が出てきましたね。ウイルスの写真を拡大印刷して部屋に貼る小学生、すごい。学会でお話ししたところ原著論文に当たりウイルスの勉強をしていることに驚いたのですが、論文はどういうきっかけで読み始めたんですか?

最初はウイルスの図鑑とかを買ってみたんですが、図鑑を読んでもなにも分からなかったんですよね。それを母に言ったら、おそらく当時は冗談のつもりで「論文でも読んだら?」と言われまして。「論文 読み方」とかで検索してgoogle scholarを知って、そこで初めて読んだのが高田先生が1997年に出したGFPを用いたエボラのreconbinant論文です。当時は全然英語もわからなかったので、5時間かけて一単語づつ調べました。これが初めて読んだ論文です。

– 最初からかなり専門的な論文を選んだんですね・・・!小学二年生でも原著論文にアクセスできるというのは、オープンアクセスって大事なんだな、と思わされるエピソードです。確かに5、6年前だと今ほどは自動翻訳進んでなかったから論文読むのも今より大変そうです。ご両親はウイルスに関する勉強を応援してくれたんですか?

母はあまりよく思っていなかったようです。中学受験が控えていたこともあり、受験に関係のある勉強をして欲しかったのだと思います。でも論文を読むための英語の勉強は受験にも役立つので親も応援してくれました。小学3年生の頃に英検3級を取り、今は英検2級まで取得しています。

– 中学一年生で英検2級(高校卒業程度)はすごいですね。結構勉強自体も好きなタイプなんですか?

それがそんなこともなくて、例えば数学とかは苦手です。ひたすら論理で詰めるよりも、いろんな知識から結論を導き出すような考え方の方が好きな気がしています。
中学時代に通っていた塾でかなり様々な分子模型を扱わせてもらったこともあり化学は好きです。シャペロンを介したタンパク質のフォールディングなども分子模型から理解しました。

– 今の塾って小学生にタンパク質のフォールディングの説明するのか・・・知らないうちに教育業界は進んでるんですね・・・

現在の研究生活

– 今も個人的に色々な研究や解析などを行なっていると聞いたのですが、その辺りお聞かせ願えますか。

小学生時代からNCBIでデータを取得して、MOE(蛋白質の構造解析ツール)とかMEGA(分子進化の解析ツール)とかを使って遊んでいました。中学入試の面接でそれを先生に話したら技術部に入れられそうになったのですが、別にコンピュータに詳しいわけではないので断りました。

– その時点で普通の中学生よりだいぶ詳しい気がしますね・・・僕のような研究者は論文を書くためにそういった解析をしますが、どういうモチベーションで解析を行っていたのでしょう?

やはり仕組みがわかるのが醍醐味です。純粋に、自分の理解が進むのが楽しくて解析をしていました。

– 目先の論文に追われているポスドクとしては目が覚めます。笑 僕が「小さなウイルスマニア」さんに会ったのは「ウイルス学若手の会」だったのですが、そういった研究者コミュニティとの繋がりはいつ頃からあったんですか?

初めて読んだ論文の著者である高田先生とは、論文のアクセス情報からメールを送り、やりとりをしていました。ですが積極的に動くことができるようになったのは異才発掘プロジェクト ROCKETに参加してからです。ROCKETでは申請書を書いてみちのくウイルス塾の旅費をもらって、そこで出会った先生が高田先生の研究室と繋がりがあり、改めて紹介して頂き北大を訪れることができました。

– 研究費獲得まで自力でやられているのですね。共同研究なども行っているのでしょうか?

やるとしたら先方のデータを私が解析、というような関わり方になるのかと思うのですが、本音を言うとやりたいのは実験やフィールドワークだったりします。でもウイルスを実際に扱うような研究は日本だと規制が厳しくて難しいところもあります。

– エボラウイルスはBSL4*ですもんね。そもそも国内に扱えるところが少ないし、中学生が扱うのは流石に厳しそうですね・・・。結構対象としてはハードルが高いと思うのですが、何故そこまでエボラにこだわるのでしょうか。
*BSL: バイオセーフティーレベル。病原微生物などを危険度に応じて取り扱いの厳しさが定められている。BSL4は最も高いレベルで、扱える研究所は世界でも60箇所程度しかない

やはり単純に形状が美しく、可愛いからですね。最近はエボラウイルスの属している科であるフィロウイルス科全般に興味を持っています。抗体依存性感染増強のメカニズムなど、まだまだ未解明な部分が多く面白いと思っています。現在フィロウイルスのレビューを書いており、日本語版は書きあがったので、現在英訳作業を進めています。

– 論文を書いてるんですね。ちょっと見せてもらっていいですか?(wordの原稿を送ってもらう)・・・(クオリティにしばし絶句)・・・すごい、ぱっと見る限りかなりちゃんとしてますね!添削してもらって英語に直せば、海外ジャーナルへの投稿も全然ありえそうです。その歳で英文論文を出版していれば、どこの大学でも推薦で狙える気がします。将来的には医学部への進学を検討ということでしょうか?

人獣共通感染症がやりたいので、獣医学系に行きたいです!

共同研究の募集

– 先ほどの論文は出版を考えているんですか?

共同研究してもらう大学の先生に見せて、こちらの知識を示すために書いたので、出版までは考えていないです。

– あまりに勿体無いので、どれだけ効果あるかわかりませんがここで募集してみましょう。中学生の書いたフィロウイルスのレビューを添削し、論文投稿の面倒を見て、英文校閲や投稿量を支払っても良い、という研究者の方、居られましたらご連絡いただければと思います!小さなウイルスマニアさんのTwitterに直接連絡でもいいですし、僕のアドレス(kmooog@tayo.jp)に連絡いただいてもお繋ぎできます。

ありがとうございます!まだまだ知識不足ですが、頑張りますのでよろしくお願いします!

終わりに

“Science without borders “

“Open Science”

このような標語で語られてきた学問の民主化により、中学生でも並外れたやる気があればレビュー論文が書ける世の中になっているようです。

どうにもウイルスが敵視されがちな世の中で、科学的に不正確な情報も多く出回っていますが、中学生でも原典にアクセスできる世界で大人たちは何をやっているのでしょう。

今後こういう人たちが各分野に登場して、いろんな学会をザワつかせていくんだろうな、と思うとワクワクしますね。一回の研究者として、勝てないな、と同時に、負けてらんないな、と思ったインタビューでした!