【リンネの二名法】学名はなぜラテン語?面白い学名8選もご紹介!

皆さん、こんにちは。生物科学をこよなく愛するライターの糸野旬と申します。さて今回のテーマは、理系の方にはおなじみの学名について。

学名とは動植物につける学術上の名称であり、世界各国で共通しています。学名の表記には、古代ローマ帝国の公用語であったラテン語が使用されています。世界共通語と言われる英語ではなく、ラテン語が学名に用いられるようになったのはなぜなのでしょうか。

今回は学名にラテン語が使用されている理由について、思わず笑ってしまうような面白い学名と合わせてご紹介します。

リンネの二名法

学名について語る上でまず外せないのが、スウェーデンの植物学者であったカール・フォン・リンネの存在です。

彼こそが近代分類学の父と呼ばれた人物で、生物の海藻的分類体系を提唱し、さらにはリンネの二名法という学名の表記法を普及させるという多大な功績を成し遂げたことで広く知られています。

リンネが学名を初めて提唱したというわけではない

これは意外にも誤解されがちなところですが、実はリンネが学名を初めて提唱したというわけではありません。彼が「リンネの二名法」を生み出す以前から、新たに発見された種にラテン語の学名を与えるということは、分類学の分野においてすでになされていました。

ただ、二名法がまだない時代の命名法は、既存の種の名前に新たなラテン語を次々に追加していくという非常に分かりにくいものでした。そのため、学名がかなり複雑なものになってしまう場合も多かったのです。リンネはこの複雑な命名システムを見事に簡略化させました。

  • 以前の命名システム属名(ラテン語1語)+その種の特徴を示す複数の単語
  • リンネの二名法属名(ラテン語1語)+種小名(ラテン語1語)

学名の例

学名にはその生物の特徴を的確にあらわすワードが使用されており、一目見ただけで当該生物の性質や習性などがよく分かるようになっています。一例として、ライオンとトラの学名を見てみましょう。

  • ライオン:Panthera leo(パンテラ・レオ)
  • トラ:Panthera tigris(パンテラ・ティグリス)

ライオンとトラはともにヒョウ属に属しています。ヒョウ属をあらわすパンテラ(Panthera)という言葉は、パン(すべての)+テール(肉食獣)、つまり完全なる狩人という意味をもつラテン語です。

ライオンの種名レオ(leo)は、そのままライオンをあらわす言葉です。そしてトラの種名であるティグリス(tigris)は、メソポタミア文明発祥の地であるチグリス川を語源としています。ティグリス(tigris)には「とても流れの速い川」という意味があり、それがトラという生き物の俊敏さに結びつけられたものと言われています。

学名の表記にラテン語が選ばれた理由は?

学名はラテン語で表記されることが定められています。しかし、博物学が進展しさらに分類学が発達し始めた当時、ラテン語を日常的に使用している民族はすでに存在していなかったといいます。世界的な公用語とされている英語ではなく、当時からすでに衰退しつつあったラテン語が選ばれたのはなぜなのでしょうか。

ラテン語の特徴として、主に以下の3点が挙げられます。

  • イタリア語、フランス語、ルーマニア語、スペイン語、ポルトガル語の祖先語である
  • 英語、ドイツ語、オランダ語などのゲルマン系言語に多大な影響を与えている
  • 中性ヨーロッパ社会にて文学・学術分野で広く用いられていた

上記の通り、ラテン語はさまざまな国の言語に幅広く影響を与えていた言語でした。たとえ日常的に使われることはなくとも、どの国の学者にも馴染みの深い存在であったことがうかがえます。学名の表記にラテン語が選ばれたのは、このようにラテン語特有の中立性が支持されたためであるという説が有力です。

面白い学名8選

学名と聞くと、なんとなく堅苦しく小難しいようなイメージがありませんか。しかし実際のところ、学名をつける際の規定はそれほど厳しいものではなく、最低限の規定を守ってさえいれば自分のつけたい名前をつけることも可能なのです。

ここでは中でも特に面白い学名についてご紹介します。ぜひ一度声に出して読んでみてくださいね。

◆声に出して言ってみたい系

①Gorilla gorilla(ゴリラ ゴリラ)

こちらはかの動物園の人気者、ゴリラの学名です。ゴリラ・ゴリラと2回続けるだけで何かいい響きなのはなぜでしょう。

②Gorilla gorilla gorilla(ゴリラ ゴリラ ゴリラ)

こちらは二シドーランドゴリラという種類のゴリラの学名です。3回言うとさらに楽しい。

◆下ネタ注意系

③Bocydium tintinnabuliferum(ボッキディウム チンチンナブリフェルム)

こちらはヨツコブツノゼミというツノゼミの一種の学名です。おいおい、もはや完全なる下ネタじゃないかと突っ込みたくなりますが、実はBocydiumとはラテン語で「ツノゼミ」の意味、そしてtintinnabuliferumとは「チンチン」と鳴る魔除けの名前だということです。まあ、話のネタにはなる…かも?

◆なんか強そう系

④Gallus gallus domesticus(ガッルス・ガッルス・ドメスティクス)

とても強そうな響きですね。どんな屈強な肉食獣なのかと思いきや、実はこれは私たちの身近に存在する鳥類、ニワトリの学名なのです。

⑤Ailuropoda melanoleuca(アイルロポダ・メラノレウカ)

こちらは老若男女問わず大人気のジャイアントパンダの学名です。ちなみにmelanoleuca(メラノレウカ)は「白黒の」という意味。しかしどことなくロボット感のある響きですね。

◆ん?なんか聞き覚えがある系

⑥Proceratium google(プロセラティウム・グーグル)

こちらはプロセラティウムグーグルというアリの一種の学名。由来は命名した昆虫学者が某検索エンジンに敬意を表して…ということです。

⑦Heteropoda davidbowie(ヘテロポダ・デヴィッドボウイ)

こちらはデヴィッド・ボウイと呼ばれるクモの一種の学名です。由来は某ロックミュージシャンから。このようにわざわざ有名人の名前を用いるのは、種の絶滅が危惧されているため、あえて世間の注目を集めて印象を強めたいというケースが多いのだそうです。しかし自分の名前がクモの学名になるってやはり誇らしいことなのか、あるいは若干複雑なのか、どちらなんでしょうね。

⑧Scaptia beyonceae(スカプティア・ビヨンセアエ)

スカプティア・ビヨンセアエというアブの一種の学名です。由来は某歌姫から。しかし自分の名前がアブの学名になるって(以下略)。

まとめ

今回は学名にラテン語が使用されるようになった理由や、中でも特に面白い学名についてご紹介しました。

研究者の皆さんなら、今後の研究生活の中で運良く新種を発見し、自分の好きな学名をつけられるというチャンスももしかしたら訪れるかもしれません。その際は分かりやすさや耳馴染みの良さ、そして適度なユーモアなど、さまざまなセンスが問われる非常に重要な局面となるでしょう。

学名をつける際はあなたのセンスが後の世に長く受け継がれることをどうかお忘れなく、そして後悔のないように気をつけてくださいね。

◆参考文献: 日本生態学会, 巌佐 庸他,『集団生物学』シリーズ 現代の生態学,共立出版