「いきもの屋さん大募集!」 ゲノム編集で、好きな生き物を仕事にする時代が来た!!!

好きなことで、生きていく。

YouTuberの登場のはるか前から、そんな生き方を実践してきたのが大学教員です。

昆虫が好きな人、魚が好きな人、植物が好きな人・・・その「好き」を最も直接的に仕事に結びつけられるのが、「生物系の研究者」というキャリアです。

とはいえ、それはアカデミアの話。
民間企業に就職しようと思うと、どうしても製薬系や医療系など、「ヒト」を対象とした研究職を選ばざるを得ないのがバイオ系のキャリアの実情でした。

しかし、それは過去の話かもしれません。

昨今のゲノム編集技術の技術革新により、民間企業でも非モデル生物を含む多様な生物種の研究の需要が生じていることをご存知でしょうか?

今回は、非モデル生物を扱える実験生物学者を大募集中の広島大学発ベンチャー、プラチナバイオ株式会社の奥原啓輔さんにお話を伺いました!

奥原啓輔さん プラチナバイオ株式会社代表取締役CEO。
科学技術振興機構(JST)、内閣官房、東広島市を経て、広島大学へ。取締役CTOの山本卓さんと共に、OPERA「ゲノム編集」産学共創コンソーシアム、COI-NEXT「バイオDX産学共創拠点」を構築・運営。文部科学省EDGEプログラム、JST社会還元加速プログラム(SCORE)、東京都Blockbuster TOKYOを通じて起業。

ゲノム編集のビッグウェーブ

ゲノム編集、去年ノーベル賞も取りましたし、ベンチャー界隈でも良く聞く単語ですよね。そもそもなんでこんなに流行ってるんですか?古典的な遺伝子組み換えとはどう違うんでしょう。

そもそも古典的な遺伝子組み換え技術は、ある遺伝子を別の生物のゲノムに導入すること(ノックイン)で、その生物に新しい性質を付与することが目的になります。生物多様性の保全の観点から、遺伝子組み換え生物の扱いはカルタヘナ法で国際的に規制されています。

一方、ゲノム編集技術はゲノム上の特定の位置に特定の変異を起こすこと(ノックアウト)ができるため、カルタヘナ法に規定された「遺伝子組換え生物等」に該当しない形で遺伝子を改変した生物を作ることができます。

ノックインはまだできないんですかね?ノックアウトだけだとかなり用途が限定的になってしまう気がするのですが。

技術的にはノックインも無論できるのでアカデミアの基礎研究では利用されていますが、扱いとしては遺伝子組み換えと同様になってしまいますね。しかし遺伝子組み換えも医薬品などの有用物質の生産などにおいては現在も使われています。そのような閉鎖系で、生物体自体を利用しないような業界ではノックインも使われています。

遺伝子組み換え食品が普及しなかった要因として、「世間からのなんとなく体に悪そうなイメージ」というものも大きいのではないかと思っています。一方「ゲノム編集」に関しては、そこまでネガティブなイメージを持たれていない気がします。マーケティングのアプローチなども結構違ったりするんでしょうか?

当然、社会とのコミュニケーションの部分はとても大事なので、内閣府・第2期SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)からの情報発信や、各社で色々と取り組んでいます。

具体例を挙げると、例えばサナテックシード社はゲノム編集により作出したGABAリッチトマトの苗を3000株ほど無料配布し、ゲノム編集トマトの栽培をする方々のSNSでのコミュニティを作っています。また、我々も共同研究しているリージョナルフィッシュではクラウドファンディングで支援者を集めて、ゲノム編集した肉厚マダイを返礼品にしています。

このように、わかり易く丁寧に技術やその必要性を情報発信しながら、まず新技術に対しポジティブな人たちにまずリーチし、コミュニティの応援を受けながら徐々に規模拡大をするアプローチを取っているのも遺伝子組み換え技術の時とは違う流れです。

コミュニティ駆動型のビジネススキームの隆盛も追い風なんですね、面白い!

ゲノム編集が流行っている訳

・遺伝子組み換え作物に該当せず、放射線照射等の従来の突然変異育種と同等の扱い

・コミュニティ駆動型で徐々に認知を広げるマーケティングの成功

ゲノム編集生物の利用の現状

実際の応用例にはどのようなものがあるんですかね?

最初に世に出たゲノム編集プロダクトは、米国で作られた高オレイン酸大豆です。こちらは既に製品化していて、大豆油として流通しています。

「これがゲノム編集大豆です!!」って大豆そのものを売るんじゃなくて、加工食品として売ったほうが受け入れられやすいんですかね?

それはあると思います。ゲノム編集作物をそのままではなく、加工のプロセスを挟んで間接的な製品に落とし込むことは重要ですね。その他では、同じく米国のPRRSウイルスに耐性を持つ豚(スーパーピッグ)や、イギリスでゲノム編集で白血病治療を行なった例などがあります。

日本では先ほど話の出た肉厚マダイやGABAトマトのほか、阪大と理研のチームを中心に毒のないジャガイモの例があります。こちらには弊社技術のPlatinum TALENが使われています

遺伝子組み換えには当たらないとはいえ、屋外で大規模に栽培するためには色々なハードルがある気がするのですが、その辺りどうなんでしょう。

例えば、トマトは隔離圃場や植物工場での栽培がされていますし、ゲノム編集の魚も現在は完全閉鎖型の陸上養殖のみの利用です。開放系で利用するためにはまだ色々なハードルがありますが、放射線育種で作られた品種などは既に大規模に野外で育てているので、将来的にはそれぐらい広まる可能性もあるのではないでしょうか。

既にバイオ医薬品の作成などでは遺伝子組み換え技術もかなり使われていると思うんですが、微生物の方がやりやすかったりするんでしょうか?

許認可プロセスは要りますが、閉鎖系のタンクの中で扱える微生物ではノックイン含めたゲノム編集が可能なので、やれることは多いですね。既存の遺伝子組み換え手法はバイオ医薬品など有用物質生産の高効率化に利用されることが多いです。ゲノム編集を使えばパスウェイ自体の改変など、より自由な遺伝子操作が可能になります。こちらの分野でももっとゲノム編集技術を利用できるようにしていきたいですね。

非モデル生物がビジネスになる時代

実際、プラチナバイオではどんな対象を扱っているんですか?

色々やっているので、スライドお見せしますね。

提供資料: プラチナバイオ株式会社

すごい、色々やってますね!無脊椎動物、脊椎動物、植物、微生物と対象種がかなり広範ですね。とはいえ所謂「モデル生物」と言われるような種が多い気もします。

そもそもゲノム情報がわかっていない生物はゲノム編集できないので、リファレンスのゲノム情報がしっかりしている生物から取り組んでいます。農作物はリファレンスゲノムが多くやりやすい一方、昆虫なんかでは種の多様性に対してゲノム情報が少ないので難しい、とか。

しかし、ゲノム編集はこれまでは基盤技術の開発競争がメインでしたが、産業応用が進むにつれて、どれだけ価値のあるターゲットを見つけられるかという競争に徐々に移行しつつあります。なので今後は、「価値のある生物のゲノムを読むところから始める」というアプローチが重要になってくると思います。中国は現在農作物のゲノムを山のように解読していますが、これも産業応用を見据えてのことだと思います。ここにかける投資の規模感は日本とは違いますね。

ゲノム解読のコストがどんどん下がっている上に、ゲノム編集技術でゲノム情報の利用価値も高まっているのでゲノム解読が加速度的に進んでいるんですね、面白い!プラチナバイオでもゲノム解読から行っている例はあるんですか?

例えば、弊社・科学技術顧問の坊農秀雅のラボ(bonohulab)では、広島県繋がりで「ゆかり」を作っている三島食品様と共同研究をおこなっています。「ゆかり」には古典的育種によって作られた非常に色も香りも良い赤しそが使われているのですが、これまでゲノムが読まれてこなかったので「なぜ色と香りがいいのか」、ということが分からなかったんですよね。

弊社では古典的な育種だと乗り越えられない壁を越えるために赤しそのゲノムを解読し、どのような遺伝子が赤しその品質向上に重要なのか?という解析から始めています。

ゲノム解読とゲノム編集技術の発達によって「非モデル生物」も産業応用の対象になってきた、という見方もできそうですね。好きな生物種に関する仕事ができるのは生物系の研究者にとって非常に魅力的なように思います!

まさにそういう人に来て欲しいと思っています!これまでは対象生物に関する知識とノウハウを持っている共同研究先と組んでいたのですが、今後は自社にも色々な生物を扱える人をどんどん入れていきたいと思っています。応用の可能性は非常に広いので、微生物、培養細胞、水産物、植物など、ゲノム編集の対象となる様々な生物の専門家に是非参画して頂きたいと考えています!例えば、昆虫が専門の人であれば、一緒に昆虫のゲノム編集を使ったビジネスを考える、という感じですね。

その言葉が非常に刺さる生物系の研究者は多いと思います。具体的にはどんな人材を強く募集していますか?

何より、自身の能力とプロダクトで社会貢献したい、という強いモチベーションのある方に応募頂けると嬉しいです!

そして当然企業なので、ある程度のフレキシブルさも必要です。例えば、魚の人に微生物の仕事を任せるようなことも出てくると思います。なので、自立して研究を進めることが出来て、新しい技術やビジネスに関するインプットにも意欲のある、アーリーキャリアのポスドクのような方がいいのではないかと思います。

tayo.jpに掲載いただいている求人では、クロスアポイントの制度が話題になっていました。これは実際どういう制度なんでしょう?

広島大学内のゲノム編集イノベーションセンター

まず、弊社は広島大学内のゲノム編集イノベーションセンターというところに本社があります。なので、広島大学との共同研究はとてもやりやすいです。これから広島大学に共同研究講座を設置し、クロスアポイント制度を活用して「特命教員」というアカデミアのポストを名乗ることも出来るようにします。「特命助教」、「特命准教授」とかですね。また社会人ドクターとして博士号取得を支援する制度も設けているので、修士卒で民間企業の研究職をやっていた人が弊社で働きながら博士取得を目指す、という意欲のある方を支援する体制も整えています。

現在では熊本大学に研究員を派遣するなど、他大学との連携も強めています。「最適なラボにメンバーを送り込む」という動きは今後どんどんやっていきたいと思っています。

企業で任期なしで雇用されながらアカデミアのポストも獲得できるのは、夢のような話ですね・・・!本日は貴重なお話、ありがとうございました!

プラチナバイオにお話を聞く

プラチナバイオでは生命科学系の研究者と、データ解析基盤を開発するエンジニアを募集しています。

tayo.jp経由で応募できますので、「好きないきものを仕事にしたい」研究者の方々は、ぜひ応募してみてはいかがでしょうか?