スポンジボブで学ぶ海洋生物学

はい、ということで皆さん、元気ですか?
そして、スポンジボブを見ていますか?
僕はめちゃくちゃ見てます。

さて。2020年はスポンジボブファンにとってなかなか大事な年でした。
なんでかというとスポンジボブ第三作目の映画である「スポンジ・オン・ザ・ラン」が公開されたからです。


2018年に原作者のステファン・ヒーレンバーグがALSで亡くなっており、今回は初めて脚本にヒーレンバーグの名前がない映画作品でした。

藤子・F・不二雄先生が亡くなってからの劇場版ドラえもんでは良くも悪くも商業色が強まったように、やはり原作者は作品世界の神であり、その不在は大きな影響をもたらします。

特に前作の「海のみんなが世界を救Woo!」が子供向けアニメの皮を被った超絶アシッドサイケムービーだったので、「ヒーレンバーグが亡くなって、もしかしたらこれまでの狂気が薄れてしまうのではないか・・・?」という危惧がファンにはありました。

N. E. R. Dによる「海のみんなが世界を救Woo!」の主題歌。確信犯。

そのような危惧の一方、出演するキアヌリーヴスのどうかしている登場シーンや、weezerによる楽曲提供などワクワクせざるを得ない情報が出てきて、期待と不安の入り混じる状況で劇場公開を世界中のスポンジボブファンは待っていました。

どうかしているキアヌ

しかし、そこへ起きたコロナショック。劇場公開はなくなり、ネットフリックスによる配信のみの公開になります。その公開直前に、スポンジボブのことしか考えられなくなった僕のTweetがなんかすごいバズります。

僕はもう感覚が麻痺して常識だと思っていましたが、このツイートに対する反応を見ると、どうやら世の中的にはスポンジボブが台所用品ではなく海綿動物であるということすら常識ではないらしい。
ましてや、稀代の天才ステファン・ヒーレンバーグが海洋生物学の教育のために作った作品ということなど誰にも知られていない。

そこで、海洋生物学者の末端として、スポンジボブがいかに正しい海洋生物学の教育アニメであるかを語らねばならないな、と思いました。

前置きが長くなりましたが、「スポンジボブで学ぶ海洋生物学」、始めさせていただきます。
あと映画の三作目は普通に良かったので、みなさん見てください。狂気は抑えめ、エンターテイメント性高めで、入門にはちょうどいい作品かと思います(個人的には前作が一番好きではあります)。

主人公 スポンジボブ

https://twitter.com/SpongeBob/header_photo より

まず主人公が海綿動物です。
海綿動物は我々の陸上生活においてはあまり関わらないし触れ合いませんが、学術的には様々な観点から非常に重要な生き物です。

まず何と言っても進化学的に超重要です。現存する動物門の中で最も早く誕生したグループ(5.2億年以上前)であるため、他の全ての動物は海綿動物の姉妹群となります。
(現在ではクシクラゲの属する有櫛動物の方が古く誕生したという説もありますが、少なくともスポンジボブの執筆時には海綿動物が最も祖先的であると考えられていました。)


進化的に古い動物を中心とした系統樹

カイメンの幹細胞から見る多細胞化の始まり 
(船山典子 京都大学 大学院理学研究科) より引用https://www.brh.co.jp/publication/journal/070/research_1.html

「組織」や「器官」といった高度な構造を持たない、「最も原始的な特徴を持つ多細胞生物」でもあります。

生物学のみならず、海洋学的にも重要です。水に溶けた有機物を粒子状の有機物に変換するような役割を持つため、沿岸域の炭素循環を考える上で重要です。さらに、珊瑚のように光合成をする微生物を共生させ、一次生産に寄与することもあります。

海綿動物は水に溶けた有機物(DOM)を粒子状の有機物(POM)に変換する doi:10.3354/meps12443

このように高校生物でも習うぐらい生物学分野ではメジャーで、生き物を知る上では重要な動物なのに、一般には知られていない。これを主人公に持ってきたあたりに、ステファン・ヒーレンバーグの教育者としてのセンスが光ります。

また、海綿動物は「襟細胞 (collar cells)」という特殊な細胞を持っています。スポンジボブが襟付きの服を着ているのは、生物学的に正しいのです。

襟細胞は、一本の鞭毛とそれを取り囲んで環状に並んだ微繊毛からなる「襟」という構造をもつ細胞。襟は水中の微粒子を餌として捕捉するのに役立つ。
Animation by Keith Davey (2000)
http://www.mesa.edu.au/friends/seashores/sponges1.html

さらに、スポンジボブには両親がいる一方で、スポンジボブ自身はアセクシャルであることがヒーレンバーグにより2002年に公言されています。

これはきっと、海綿動物が無性生殖と有性生殖の双方を行うことを反映するのでしょう。
ちなみに、「スポンジボブ・スクエアパンツ」がそれぞれfirst nameとlast nameで、両親の名前は「マーガレット・ スクエアパンツ」と「ハロルド・スクエアパンツ」です。

スクエアパンツ家の家系図。スクエアパンツはfamily nameなので、日本語版の主題歌で「スポンジボブ、ズボンは四角!」と訳しているのは誤訳。

宿敵 プランクトン

スポンジボブの宿敵であるプランクトン。左はコンピュータの配偶者のカレン。カレンという名前はステファン・ヒーレンバーグの配偶者、カレン・ヒーレンバーグから取られている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Plankton_and_Karen#/media/File:Plankton_and_Karen.svg

主人公のライバルであるプランクトンは、カイアシ(ケンミジンコ)です。
カイアシも普通に生きてたら知ることない生き物かと思いますが、海洋で最も数の多い動物プランクトンであることから、海洋学では超重要ないきものです。

「歴史上最古の多細胞生物」である海綿のライバルに、「地球上で最も数の多い多細胞生物」(Hardy, A. (1965))であるカイアシを持ってくるのは、生物学を学んだ人じゃないと無理だと思います。

また、プランクトンはCopepodの中でもケンミジンコと呼ばれる生き物で、ケンミジンコの属名はCyclopsです。これはケンミジンコが一つ目であることから、ギリシャ神話の一つ目巨人にちなんでつけられた名前です。

目が一つだけのプランクトンのデザインも、生物学者が見るとニヤリとする要素です。

ネマトーダ

https://spongebob.fandom.com/wiki/Nematodes

ネマトーダ(線虫)は海洋に非常に多く存在する動物です。寄生性のアニサキスなどは有名ですね。
最初にゲノム解読が行われた多細胞生物であるC. elegansもネマトーダの一種なので生物学的にも非常に重要な種です。また、土壌などにも非常に多く生息するため、地球上の存在量も非常に多いです。

スポンジボブ世界では、海中に生息する動物としてネマトーダが登場します。人格はなく、ただ待機して押し寄せ、サンゴを食い荒らしていく災害のような描かれ方をしています。
一般社会ではアニサキスなどの寄生性のネマトーダばかりが目立つ一方、海洋の物質循環に大きく関わっているのはむしろこのような自由生活性のネマトーダなので、ここに着目した点も海洋生物学的です。

海洋性ネマトーダ (https://nmnh.typepad.com/no_bones/2015/09/marine-nematodes-get-new-digs.html)

特にネマトーダの説明はなく、日本語吹き替えでもそのまま「うわぁ〜!ネマトーダだぁ〜〜〜!」などとスポンジボブが言っており、知ってて常識ぐらいの感じで扱われています。サンゴ礁の世界、ビキニタウンにおいては知っていて当然の生物なのでしょう。

ホシムシ

シーズン7 episode “Growth Spout” より

ホシムシ(星口動物)も有名な海産無脊椎動物です。
系統的には元々は独立した門とされていたのが、環形動物の一分類として近年再編されたようです。
ピーナッツに似ているため英語ではpeanut wormと呼ばれ、スポンジボブにおいてはかなりピーナッツに寄せた形状で描かれます。

こちらは人格がないどころか、近所のおばちゃんが家庭菜園で育てている食料としての登場です。
食料なのにしっかり顔が描きこまれているあたり、食物への感謝の念を子供に目覚めさせるという教育的配慮を感じます。
「近所の畑から野菜を盗んじゃう話」は日常系の昔のアニメにはよくある回かと思いますが、それはスポンジボブにおいては「おばちゃんの庭からホシムシ盗んじゃう話」となります。

スジホシムシ属の一種 Sipunculus robustus

星口動物は中国、フィリピン、ベトナムなどでは実際に食用とされることもあるほか、環形動物は海洋において高次捕食者の餌として食物連鎖上非常に重要なので、この描かれ方も非常に生物学的と言えるでしょう。

スポンジボブは最高の海洋生物学の教育アニメ

いかがでしたでしょうか。
海綿とカイアシをメインキャストに持ってきたセンス、そして脇を固めるネマトーダやホシムシといった動物たち。
いずれも海洋生物学における深い知識に裏打ちされているにも関わらず、それを一切感じさせないキャッチーさでエンターテイメントとして昇華している点から、スポンジボブは海洋生物学の教育アニメとして非常に完成された作品であると言えます。

みんな、スポンジボブ、見ようぜ!

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