\上手に焼けました~~~!!!/
はい。ということで皆さん、お元気ですか?
そして皆さん、一狩り行ってますか!?
どうもこんにちは。10代の頃モンハン2ndGにどハマりして総プレイ時間900hを超えていた勢のゆるふわ生物学ロッキーです。
実は大人になってからはしばらくモンハンやってませんでしたが、新作のモンハンライズめちゃくちゃ面白そうですね!
さて、2021年3月にカプコンより発売された新作の『モンスターハンターライズ』ですが、和風っぽい雰囲気を醸し出していて、僕ら世代ならどことなく過去作の『モンスターハンター3rd』っぽさに懐かしさを感じますね。ところで今回のモンハン、新要素もたくさんあるのをご存じでしょうか?
実は今作からマップ内のステージ移動はなくなりオープンワールド形式になったり、「翔虫」という虫を操ってスパイダーマン並みに壁を登ったり空中移動したり、「操竜」といってモンスターに乗ったアクションがあったりするらしいんです。
オトモもアイルーに加えて「オトモガルク」というワンワンがいるそうな。かわいい!
ここの冒頭に出てくる見たこともないモンスターを見るだけでもわくわくしますね。さらに過去作で個人的にも凄く好きだったオオナズチやラージャンなんかも復活するらしく、懐古気味の僕としてはめちゃくちゃアツいです。
さて。そんなこんなでモンハンの話題で世間がにぎわっている中、ガチ生物学研究者によるゲーム実況グループ・ゆるふわ生物学のツイートがプチバズりします。
前作の『モンスターハンター:ワールド』の古代樹の森ステージが植物学的に神ステージだということがわかり、いっぱしの植物学者としてモンハンのステージに生えた植物を調査しに行こう!という趣旨の動画です。
そこでわかったことは、「モンハン、植物ゲーじゃん」ということです。とにかく植物の再現度が高い。テクスチャが細かい。種数が多い。環境ごとにちゃんとそれっぽい植物が生えてる。
もうとにかくめちゃめちゃ作りこみが細かいんです。植物を研究している僕からしても、「本当にフィールドワークをしているような感覚」を味わえる素晴らしいゲームだと思います。
個人的な感想からしても、このステージで古植物学の講義が二、三本できるほどの作りこみ。白亜紀の森を彷彿とさせるナンヨウスギや、古生代の生き残りである巨大なトクサの仲間に三畳紀に繁栄したヤブレガサウラボシの仲間、さらには最も古い陸上植物のひとつ、ヒカゲノカズラ。そして極めつけは絶滅した植物ベネチテス。もう古植物のオールスターなんですよね。かつてこれほど古植物が出てくるゲームがあっただろうか。いや、ない。
さあ、前置きが長くなりましたが、『モンハンで学ぶ古植物学』、早速始めたいと思います。
発熱する植物・ソテツ
キャンプ地に降り立って、いきなり目の前に出現するトゲトゲしい葉を持った植物がこのソテツ。漢字で書くと『蘇鉄』。どうやら枯れかけたソテツの木に釘を打ち込むと復活する、という言い伝えが名前の由来らしい。ほんとかよ。
名前の由来の真偽は置いといて、このソテツ、めちゃくちゃかっこいい植物です。このソテツ、実は生きた化石であると同時に、実はとんでもない植物であることをご存じでしょうか。
ズバリ、ソテツは植物なのに発熱します。植物なのに発熱って、そんなのアリかよ!とお思いの方はこちらをご覧ください。
見てください、これが発熱するソテツです。
発熱しているのはソテツの生殖器官、すなわち「花」に相当する部分。ソテツは裸子植物なので一般的には雌の生殖器官を「大胞子葉」、雄の生殖器官を「小胞子葉」と呼びます。単に雄花、雌花と呼ぶ場合もありますが。
書き忘れていましたが、ソテツは雌雄異株、すなわちオスの木とメスの木が存在します。上の写真は小胞子葉が集まった雄花錐、いわゆる「雄花」が発熱しています。雄花は雌花よりも温度が高くなるらしく、最大で周辺温度より+11℃ほども温度が上昇するそうな。すごい。
では、なぜ発熱するのか?実は発熱する植物は一般的には発熱することで匂いをより遠くに飛散させ、送粉者昆虫をおびきよせる効果があると考えられています。アロマ焚くときに加熱することで匂いが広がりやすくなるっていうアレと同じですね。
ところでみなさん、裸子植物って風媒(風に花粉を運ばせるタイプの受粉様式)のイメージがありませんでしたか?マツやイチョウ、そして一部の人にとって天敵であるスギなんかは、風で花粉を飛ばします。
ところが近年、裸子植物の中にも虫媒の植物がいることが分かってきました。ソテツもほんの10年ほど前までは風媒だと考えられていましたが、詳細な調査をした結果、なんと小さな甲虫の一種が送粉者であることが分かったのです。
ほかにも、グネツム科のグネモンノキで夜行性のガによる花粉媒介や、ナミブ砂漠の変わった植物・ウェルウィッチアにおけるハエによる花粉媒介が示唆されたり、近年裸子植物の虫媒はけっこう面白いテーマで研究されていたりします。
この記事の後半でまた触れますが、裸子植物は皆生きた化石なので、裸子植物の送粉様式を研究することは、花の起源や植物の多様化の歴史を考える上でものすごく重要になります。
この辺を語らせてしまうとキリがないので、おまけとして筆者が実際にサーモグラフィーカメラで撮影したハスの写真を載せて、そろそろ次のトピックに行きましょう。いやぁ、アツいぜ、植物。
生きた化石・ナンヨウスギ
キャンプを出ると、いきなり目に飛び込んでくるとてつもなくカッコイイ高木がこのナンヨウスギ科の樹木。
日本にいるとあまり馴染みはないかもしれませんが、そのカッコよさからファンやマニアも多いのではないでしょうか。かくいう私もこのナンヨウスギに心を奪われた一人で、琉球列島の街中とかでたまーに植えられたナンヨウスギ科の木を見るたびに「うお!ナンヨウスギだ!」と興奮気味に叫んでしまいます。同行者の方、いつもうるさくしてすみません。
ナンヨウスギ科はいわゆる針葉樹(マツ綱)に含まれるグループで、ジュラ紀から白亜紀中ごろにかけて世界の広範囲で化石記録があります。日本でも北海道や岩手県、福井県など様々な場所の中生代地層からナンヨウスギ科の化石が産出しており、当時栄えていた様子が伺えます。
しかし、現存するナンヨウスギ科はほとんど南半球でしか見つかっていません。中生代の化石記録ではかなり多様な姿がありましたが、現在では大きく分けて2系統しかありません。これは白亜紀のおわりに大量絶滅し、かつて北半球に分布していた種類はほとんど姿を消したためであると考えられています。
そんな中、現在でも40種あまりがオセアニアや南アメリカなどの限られた場所で自生している姿をみることができます。
さて、このナンヨウスギ科の中でも、ジュラシックツリーという別名もあるウォレミマツを皆さんご存じでしょうか。
ウォレミマツ(学名:Wollemia nobilis)の発見は植物学における20世紀最大の発見のひとつであると言われています。
1994年、シドニーの西方にあるウォレミア国立公園の谷沿いで、それまで見つかっていたナンヨウスギ科の2属(ナンヨウスギ属Araucaria、ナギモドキ属Agathis)のどちらにも属さないナンヨウスギ科の樹木が見つかりました。この樹木は1995年にナンヨウスギ科の新属新種として記載され、Wollemia nobilis(英語名でWollemi pine)と名付けられました。その後すぐにウォレミマツは生きた化石として知られるようになります。
Dilwynites 属と記載されている花粉粒は、オーストラリア、白亜紀、南アメリカの 9,000 万年以上前の化石記録によく見られますが、ナンヨウスギ科の現生種のいずれとも一致しませんでした。しかし、ウォレミマツが発見されると、両者の花粉粒がほとんど一致することが分かりました。また、1億50万年前から9390万年前にさかのぼる葉や球果の化石片も、ウォレマイ・パインに形態的に強く似ていいるものが見つかってます。この発見はただ新種のナンヨウスギを発見したのみにとどまらず、古植生、古気候を復元するのにも非常に重要な発見となりました。
そんなウォレミマツの仲間も現在ではシドニー近郊の谷に100本ほどが残るのみです。1994年の発見以降ウォレミマツ群落は保護され、苗木も様々な植物園に譲渡されました。日本では小石川植物園や夢の島熱帯館、東京ディズニーランドでその実物を見ることができます。
え???東京ディズニーランドにウォレミマツ???
そう、あるんです。場所はあえて秘密にしますが(ググれば出てきます)、確かにウォレミマツが生えています。是非探してみてください!
太古の“花”・キカデオイデア
ズバリ、筆者がこのステージで最も興奮した植物は何か?と聞かれたら、「キカデオイデアです!」と答えるでしょう。なんだその聞いたことがない植物は。そう、このキカデオイデアこそ、筆者がこの記事を書こう!と思ったきっかけで、この記事を通して皆さんに知ってもらいたい植物です。
僕がモンハンでキカデオイデアに興奮してしまった理由は至って明確です。
ソテツやナンヨウスギと違って、この植物は白亜紀の終わりに絶滅しているからです。
もう現在じゃ生きた姿が見れないのです!
だからモンハンの世界にこのキカデオイデアが生えていることに気付いた時、マジで心臓が飛び出るほど興奮しました。「キカデオイデアを入れよう!」と考えたスタッフさんは紛れもなく天才です。
見てください。ソテツの体に花がいっぱい咲いているなんとも奇妙な見た目をしています。後述しますが、実はこの花、ただの花じゃないんですよ。
キカデオイデアは、ソテツ綱ベネチテス目という絶滅した裸子植物の一群です。正確にはキカデオイデア科キカデオイデア属に含まれる植物をさしますが、便宜上キカデオイデアと呼ぶことにしましょう。
下の図はCrepet 2000による裸子植物と被子植物の系統図です。議論はありますが、おおよそ支持されています。これによると、ベネチテスは被子植物とは系統的に類縁関係が薄いことがわかります。つまり、キカデオイデアと被子植物は系統的に離れている。これ、あとで大事になるので覚えておいてください。
似て非なる2つの「花」
さて。先ほどのキカデオイデアの「花」、何かおかしいぞと思った方は勘が鋭いです。そう、キカデオイデアはれっきとした裸子植物であるにもかかわらず、まるで被子植物のような花を持っていたのです。
下の図を見てください。これは白亜紀に生息していたキカデオイデアの“花”の構造の模式図です。外側から「苞→小胞子葉→大胞子葉」の順番で並んでいます。
では次に、被子植物の花構造をご覧ください。
外側から「花弁→おしべ→めしべ」という順番で並んでいますね。
機能的には、「苞=花弁」「小胞子葉=おしべ」「大胞子葉=めしべ」です。つまり、全く別の植物が、全く違う経路で、全く同じ機能をもった器官を、全く同じ順番で配置させていたのです。
では、なぜこのようなことが起きたのでしょうか。
ところで、皆さんは、収斂進化という言葉をご存じでしょうか。全く系統的には関係ない生物どうしが、同じような環境に適応していった結果、似たような姿かたちになる、というものです。例えば、クジラとサメ、鳥とコウモリ、脊椎動物の眼とイカ・タコの眼なんかが有名ですね。
実はこのキカデオイデアと被子植物も、虫媒に適応するように収斂進化した結果、同じような構造をもった花が生まれたと考えれば説明がしやすくなるかもしれません。虫に花粉を運んでもらう際に、この花の構造やおしべ、めしべの順番が大事だった可能性が考えられます。俗っぽい言い方をすれば、白亜紀後期では風任せは時代遅れになりつつあり、キカデオイデアは最先端で効率もよい虫任せに適応していった結果、被子植物の花とそっくりの構造を手に入れたということもできるかもしれません。
こんなキカデオイデアですが、白亜紀の終わりに多くの裸子植物とともに姿を消してしまいます。その具体的な理由はまだわかっていません。
ただ、裸子植物の衰退と被子植物の多様化のはジュラ紀から白亜紀にかけて起こり、裸子植物は次第にその地位を被子植物に奪われていったと考えられています。この原因としては被子植物と裸子植物の成長スピードの違いや気候変動など複数の要因があげられますが、虫媒の獲得は被子植物を多様化させ、結果として裸子植物の地位を奪った可能性があります。
さあ、次のトピックがいよいよこの記事のクライマックスですが、その前にキカデオイデアの化石を是非見ていってください。
この幹に、上記の花に似た器官がボコボコついていたそうです。生きていた姿に思いを馳せながら眺めてみてくださいな。
花を進化させた虫、虫を進化させた花
現在の陸上植物のうち、およそ9割が花をもった被子植物です。さらに被子植物のうちおよそ9割は「虫媒花」です。地球は花の惑星であると言っても差し支えありません。
しかし、少し前(1億年くらい)まではそうではありませんでした。
遡ることおよそ1億9000万年。アプトノスステゴサウルスがまだいたジュラ紀では、さまざまな種類のマツ類、イチョウ類といった裸子植物が森を作っていたと考えられています。
その頃の植物の受粉方法のトレンドは「風任せ」、すなわち風媒でした。花粉は風に飛ばされるため、花は目立つ必要はない代わりに、花粉の量は非常に多く、枝の高いところにつく傾向があります。現在のマツやイチョウでもそのスタイルが受け継がれています。
一方この頃、一部の裸子植物やごく初期の被子植物では、花粉を風に任せるのをやめ花粉を食べにくる昆虫を利用して花粉を運んでもらうスタイル、すなわち「虫媒」が誕生したと考えられています。
では、ジュラ紀や白亜紀の送粉者はどういった昆虫だったのでしょうか。
下の写真を見て下さい。これはチョウではありません。これはアミメカゲロウの仲間です。実はこの時代、現在の最大の送粉者であるチョウやハナバチの仲間はまだ誕生してすらいません。
このように恐竜と裸子植物の時代は、花粉や蜜目当てのランゴスタアミメカゲロウ類、コウチュウ類、ハエ類、シリアゲムシ類、アザミウマ類がメインの送粉者だったと考えられています。
中でもブナハブラアミメカゲロウ類やシリアゲムシ類やハエ類からはストロー状の口を持っているものが見つかっており、蜜食に特化していたと予想されます。めっちゃチョウじゃん。
ところが、白亜紀中ごろを境に、突如として被子植物の種数が爆発的に増加しはじめます。
実はこれこそが植物の歴史を揺るがした大事件、ハナバチの誕生です。
下の図を見てください。左図では、濃い緑は古い送粉者の系統、薄い緑は新しい送粉者の系統を表しています。白亜紀中期にハナバチが誕生するのと同時期に、古い送粉者の系統がダイナミックに変化しているのが分かります。
右図では、濃い緑が裸子植物に関連した昆虫の多様性、薄い緑が被子植物に関連した昆虫の多様性を表しています。これも白亜紀中期に被子植物と裸子植物の関係性が一気に逆転していることがわかります。
実は、これほどまでハナバチが歴史を変えたのには理由があります。彼らは花粉をエサにしていた甲虫や活動量の低いアミメカゲロウのような“従来の送粉者”と比べて、圧倒的な花に対する積極性と活動量を持っていました。
ハナバチは巣に幼虫全てを育てるために、常に花から花へと移動する必要があります。しかも同じ種類の花をよく覚えるため、植物にとってこれ以上都合のいいパートナーはいません。
その効率の良さは植物にとってあまりにも有利だったため、一躍送粉者のトップスターとなりました。
これによって被子植物はより大きく、よりカラフルに、より魅力的な香りを放つようになり、蜜などの報酬も用意するようになりました。
そして花の多様化に伴い、暁新世に入るとチョウやスズメガなどの送粉者も誕生しました。植物も赤い花や白い花など、様々な姿かたちを次々に進化させていきます。
ここまでくると植物の進化に合わせて昆虫も進化し、そして多様化した昆虫に合わせて植物も更に進化する、という正のフィードバックがかかります。これこそが植物と昆虫の共進化の始まりです。
こういうわけで、地球は現在のような「花の惑星」となったわけです。花の進化なくして虫の進化はなく、虫の進化なくして花の進化はなかったということです。
最後になりますが、もし被子植物が繁栄せず裸子植物の森のままだったら我々もいなかったかもしれませんね。「世界はすべて何かと何かの相互作用でできている」ということを、モンハンと古植物学が改めて教えてくれました。虫よ、花よ、あらゆるものにありがとう。
モンハンは最高の植物ゲー
ということで、『モンハンで学ぶ古植物学』いかがだったでしょうか!
この古代樹の森は、文字通りの「古代樹の森」でしたね。記事内では細かく取り上げられませんでしたが、ほかにも巨大なヘゴや三畳紀に繫栄したヤブレガサウラボシ、石炭紀に繫栄したトクサの仲間、そして真ん中にそびえる古代樹(おそらくガジュマル)の存在など、モンスター以外にも見るところが盛りだくさんで非常に色々学びがある神ステージでした。え?迷路すぎてプレイしにくい?植物が素敵なのでオッケーです。
そして実はこの『モンスターハンター:ワールド』、古代樹の森以外にもサンゴ礁のステージ、菌類に蝕まれているステージなど、様々な環境生物が生物学的に観察できるすばらしい作品となっております。
まさに最高の植物ゲー、いやフィールドワークゲーと言えるでしょう!
そして新作の『モンスターハンターライズ』ですが、やっぱり買おうと思います。こんなに生き物の作りこみが細かいゲームなんてなかなかないぜ。皆さんも一狩り行きましょう!
もっと知りたい人へ
生物学研究者によるゲームチャンネル・ゆるふわ生物学Chによる『植物研究者といく!モンハン古代樹の森編』をどうぞご覧あれ。専門知識のシャワーを浴びたい方は必見のチャンネルです。
植物学を学びたい方へ
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