ポケモンスナップで浮上した「アーボックはヘビじゃない説」その理由とは?

「新発見だ!」ファインダー越しに見えたポケモンの新事実

2021年4月に発売された「New ポケモンスナップ」、皆さんはプレイしましたか?

ポケモンの撮影に主眼を置いたこのゲームでは、ポケモンの様々な行動や、これまで見ることのできなかったディティールを観察することができます。

筆者であるまろんさんの所属する「ゆるふわ生物学チャンネル」でも「New ポケモンスナップ」の舞台レンティル地方でポケモンの調査を行ってきました。

その結果、ひとつの衝撃的な事実が発覚しました。

「アーボック、まぶたがある!」

目をつぶるアーボック ゆるふわ生物学チャンネル #2【New ポケモンスナップ】夜の調査解禁!生物学研究者たちが調査する『Newポケモンスナップ』【実況・調査プレイ】 より引用

まぶたがあることがなぜ重要なのか。それは、アーボックがヘビではないことを示唆しているからです。

25年前からヘビポケモンだと思っていたアーボックが、実はヘビではなかったかもしれないなんて!

ヘビにはまぶたがない!?

正確に言うと、そうではありません。ヘビのまぶたは、閉じた状態で上下が癒合し、透明になっています。この特徴は、現生のヘビすべてに共通していて、可動性のまぶたをもつヘビはいません

ヘビの目には可動性のまぶたがない。タイワンアオハブ Trimeresurus stejnegeri  筆者撮影

一方で、このような可動性のない透明なまぶたをもつ爬虫類はヘビだけではありません。ヤモリの大部分(※)やヨルトカゲ科、スキンク科のオガサワラトカゲCryptoblepharus nigropunctatusなどは、ヘビと同様にまばたきをしません。

典型的なヤモリのまぶたもヘビと同様に可動性がなく透明になっている。ヤモリ属の一種 Gekko sp. 筆者撮影

可動性のまぶたをもつヘビがいないということは、目をつぶっていたアーボックは何者なのでしょうか。考えられるひとつの可能性として、アシナシトカゲのようなヘビ型のトカゲである、というものがあります。アシナシトカゲはヘビのように足が無く、にょろにょろした外見をしています。一方で、ヘビとは異なり、可動性のまぶたを持っています。

アシナシトカゲには可動性のまぶたがある。バルカンヘビガタトカゲ Pseudopus apodus 画像はパブリックドメイン

じゃあアーボックはアシナシトカゲの仲間なんだ!と結論してしまうのは早計です。アシナシトカゲとアーボックを比較すると、異なる点もあります。例えば、アシナシトカゲには耳の穴がありますが、アーボックに耳の穴は確認できません。ヘビには耳の穴が無いので、もしもアーボックに耳の穴が無いのなら、その点ではヘビと共通する特徴を持っていることになります。

アシナシトカゲの耳の穴は矢印の位置

耳の穴が無いという特徴も、決してヘビだけのものではありません。ミミナシオオトカゲLanthanotus borneensisや、アガマ科のTympanocryptis cephalusなど、耳の穴をもたない爬虫類は他にも存在します。

アーボックが現実の生き物だと何に似ているのか、それは様々な生き物と比較しながら慎重に議論する必要があるわけです。

(※)ヤモリ下目のうちトカゲモドキ科を除く

そもそもヘビって何だっけ

ヘビの特徴としてまぶたの構造や耳の穴の有無を挙げましたが、そもそもヘビとはどんな生き物なのでしょうか。まずはそのあたりを整理していきます。

ヘビというのは、脊椎動物門 爬虫綱 有鱗目 ヘビ亜目(※1)に含まれる生き物の総称です。上位分類から順に見ていくと、脊椎動物というのは我々人類も含まれる、典型的には背骨をもつ生き物のグループです。しばしば勘違いされますが、ヘビのにょろにょろした体にもしっかり骨があります。脊椎の数は数百にもなり、ヘビのしなやかな動きを支えています。爬虫綱には現生群としてワニ目Crocodylia、カメ目Chelonia、有鱗目Squamata、ムカシトカゲ目Rhynchocephaliaが含まれ、種数でいうと大部分が有鱗目に属しています。その有鱗目はさらにトカゲ亜目Sauria、ヘビ亜目Serpentes、ミミズトカゲ亜目Amphisbaeniaに分かれており、このうちヘビ亜目に属する約4000種[1]が、普段我々がヘビと呼んでいる生き物です。

ヘビの分類学的な位置

系統的にはトカゲ亜目は側系統群(※2)となっており、内群としてヘビ亜目を含んでいます。つまり、ヘビというのはトカゲの一部から進化したグループなんです。

有鱗目の簡略化した系統樹。このうちヘビ亜目とミミズトカゲ亜目を除いたすべてがトカゲ亜目に分類される。Pyron et al. (2013)を参考に作成。

ヘビの系統的な位置付けがわかったところで、今度はヘビの特徴について見ていきましょう。ヘビ全体に共通する特徴として、以下のようなものがあります。

  • 四肢が退化し、体幹が長く伸びている
  • まぶたが癒合し、透明な鱗で覆われる
  • 耳の穴をもたない
  • 完全な動物食である(※3)
  • 皮膚は乾いた鱗に覆われ、一度に全身を脱皮する
  • 二股に分かれた舌をもつ

また、すべてのヘビにあてはまるわけではないものの、ヘビに特有の特徴として、

  • 腹面に幅広の鱗(腹板)をもつ
  • 可動性の高い頭骨と顎関節をもつ

というものがあります。頭骨と顎関節の高い可動性により、頭よりずっと大きな獲物を飲み込むことができます。

ヘビがどういう生き物かおさらいできたところで、今度は「ヘビのようでヘビではない生き物たち」を見ていきましょう。

(※1)分類階級や名称は文献によって異なる場合があります。

(※2)ある共通祖先から進化した生物すべてを含むグループを単系統群といい、そこから一部の生物が除かれたグループを側系統群という。近年は単系統群のみを分類群として認める考え方が広がっているが、慣習的に側系統群が分類群として扱われている場合も少なくない。爬虫綱も側系統群。

(※3)偶発的に植物を摂取した事例は知られている。

ヘビのようでヘビではない生き物たち

さて、はじめのほうでアシナシトカゲに触れましたが、ヘビのように足の無い生き物は他にもたくさん存在しているんです。ヘビと同じように4本足の祖先から進化し、足を無くした爬虫類と両生類を以下に挙げていきます。

爬虫類
  • アシナシトカゲ

まずは初めに触れたアシナシトカゲです。一般的にアシナシトカゲと呼ばれるのは、アシナシトカゲ科Anguidaeに属する足の無い種類です。わざわざ「足の無い種類」と但し書きを付けたからには、足のある種類も存在し、種数で言えば足があるほうがむしろ多数派です。足を失う進化は、アシナシトカゲ科の中でもなんと2回独立に起こっており、近縁なギンイロアシナシトカゲ科Anniellidaeも含めれば、近い系統で3回も起こっています。

足のあるアシナシトカゲ科の一種Abronia graminea 画像はCC0

足がない点を除けばかなりトカゲらしい特徴を持っており、可動性のまぶたと耳の穴を有しています。また、動物食の種のみからなるヘビに対して、バルカンヘビガタトカゲは雑食性で、植物も主要な餌となっています。

  • ミミズトカゲ

ヘビでもなければトカゲでもない!?有鱗目第三のグループ、ミミズトカゲ亜目Amphisbaeniaの動物たちも、にょろにょろ軍団の一員です。トカゲの中でもカナヘビに近い祖先から進化したグループで、ミミズのように輪状のくびれがあり、地中を掘り進んで生活します。目は退化してまぶたは動かせず、耳の穴もありません。この特徴だけ見るとヘビに似ていますが、外見や頭骨の構造は大きく異なります。前足のみをもつフタアシミミズトカゲ属Bipesも含まれます。

前足をもつフタアシミミズトカゲ属の一種Bipes biporus
Mexican Mole Lizard Bipes biporus” by marlin harms is licensed under Creative Commons Attribution 2.0 Generic
  • スキンク類

スキンクという名前にはあまりなじみがないですが、日本人にとって最もなじみ深いトカゲのひとつ、ニホントカゲを含むグループがスキンク科Scincidaeです。スキンク科の中では足を退化させる進化が何度も何度も起こっており、足の退化度合いや目などの特徴は様々です。

スキンク科のヘリグロヒメトカゲAteuchosaurus pellopleurus
足はあっても非常に小さい種類も少なくない。筆者撮影
  • ヒレアシトカゲ

ヒレアシトカゲ科Pygopodidaeは変わり種のヤモリの仲間です。壁に貼り付くおなじみのニホンヤモリが属するヤモリ科Gekkonidaeや、ペットとして人気のヒョウモントカゲモドキが属するトカゲモドキ科Eublepharidaeとともに、ヤモリ下目Gekkotaに含まれます。他の多くのヤモリやヘビと同じように可動性のまぶたをもたず、ヘビとは違って耳の穴があります

可動性のまぶたをもたず、耳の穴を持ち、舌は二股にならない。Pygopus lepidopodus
Common Scaly-Foot mouth open” by John Tann is licensed under Creative Commons Attribution 2.0 Generic
  • その他

これらの他にも、フタアシトカゲ科Dibamidaeや、ヨロイトカゲ科Cordylidaeのカタヘビトカゲ属Chamaesaura、カタトカゲ科GerrhosauridaeのTetradactylus属の一部、ピグミーテグー科 Gymnophthalmidaeの一部に足の退化した爬虫類が存在します。

爬虫類全体で見ると、約25回も足の退化が起こったことが知られています。[2]

両生類
  • アシナシイモリ

両生類からはアシナシイモリがエントリー。イモリと名にはつくものの、イモリではありません。現生の両生類は無尾目Anura(カエル)、有尾目Caudata(イモリ、サンショウウオ)、無足目Gymnophionaの3つに大きく分類されますが、そのうちの無足目に分類されるのがアシナシイモリです。両生類ですので、乾いた皮膚に覆われたヘビとは違い、体は粘液で覆われています。一見すると鱗は無いように見えますが、ごく小さなな鱗を持っています。この鱗は爬虫類の鱗とは全く異なるものです。[3]

File:Geotrypetes seraphini 81151958.jpg
地中性のアシナシイモリの一種Geotrypetes seraphini  画像はCC0
  • 欠脚類

絶滅した生き物のなかにも、ヘビのような姿に進化したものがいます。それが欠脚類Aistopodaです。石炭紀からペルム紀に生息していた両生類で、四肢がなく長い体を持つ、まさしくヘビのような見た目の生き物です。

これらの生き物は、決して足の無い祖先を共有していたわけではありません。様々な系統で、足のある祖先から足の無い生き物が進化する、という現象が何度も独立に起こっているんです。

このように、異なる系統の生物が似たような形に進化する現象を、収斂進化といいます。有名なところだと、有袋類のフクロモモンガやフクロモグラが、それぞれ有胎盤類のモモンガやモグラと似た姿に進化している例が挙げられます。モモンガとフクロモモンガは樹冠を滑空するという生態を、モグラとフクロモグラは地中を掘って生活するという生態をそれぞれ反映した形態をしているように、異なる系統の生物が似たような形態に進化するということは、その形態があるニッチに対して適応的であるということを強く示唆しています。なので、収斂進化を調べることで、生物の形の適応的な意義など、様々な情報が得られるわけです。

足を失うという進化

では、なぜこれらの生き物は足を退化させたのでしょうか。その理由はモモンガやモグラほどクリアではありません。ヘビの進化的起源については、大きく分けて水中説地中説の2つの説があります。[4]

水中説の根拠として、初期のヘビ化石に海棲のものがある(Pachyrhachisなど[5])ことに加え、モササウルスのような水生のオオトカゲ類がヘビの祖先に近縁であるという考え方が挙げられます。[6]ただし、分子系統解析の結果、オオトカゲとヘビの類縁性はかつて考えられていたほど近くないことがわかっています。[7]

モササウルスMosasaurus の復元骨格 画像はパブリックドメイン
Maastricht Natural History Museum, The Netherlands.

一方、地中性の化石種も発見されており(Tetrapodophisなど[8])、先に述べた目や耳の特徴は地中生活への適応と考えられることから、地中説もよく支持されています。

では、他のヘビ型の爬虫類や両生類は、どのような環境に適応しているのでしょうか。これは系統によって異なります。ミミズトカゲやフタアシトカゲ、足の無いスキンク類の多くは地中生活者ですが、アシナシトカゲやヒレアシトカゲは多少土にも潜るものの、どちらかといえば地表性です。また、アシナシイモリは地中性の種と水中性の種が存在しており、欠脚類に関しては詳しい生態はわかっていません。

いずれにせよ、「足を退化させ体を長くする」という、ヘビのような姿になる進化が何度も起きているということは、ヘビのような姿が有利になる状況が珍しくないことを強く示唆しています。

結論

では結局、アーボックは何の生き物なのか?その問いに対する私の答えは、

ヘビのような姿に進化した何か別の生き物

です。

結局何も答えていないじゃないか、と思うかもしれませんが、現実にそういう生き物がたくさん進化してきたわけですから、ポケモン世界でもそういう進化(ポケモン的な意味ではなく)が起こってもおかしくないと考えます。ポケモン世界で生物学的な意味での進化が起きているのかは議論の余地があるところですが、ひとまずあると考えておきます。ジャローダやハブネークといった他のヘビ型ポケモンも、もしかしたら我々の世界のヘビ型の生き物たちと同じように、4本足の祖先から進化してきたのかもしれません。

ポケットモンスター、動物図鑑には載っていない、不思議な不思議な生き物。

引用文献

1. http://www.reptile-database.org 2022/1/23閲覧

2.  Wiens JJ, Brandley MC, Reeder TW (2006). “Why does a trait evolve multiple times within a clade? Repeated evolution of snakelike body form in squamate reptiles”. Evolution; International Journal of Organic Evolution60 (1): 123–41. 

3. 松井正文『両生類の進化』p43、東京大学出版会、1996年

4. 疋田勉『爬虫類の進化』p86、東京大学出版会、2002年

5. Caldwell, M. W. & Lee, M. S. Y. (1997). “A snake with legs from the marine Cretaceous of the Middle East.” Nature 386: 705–709.

6. Coates, Michael; Ruta, Marcello (2000). “Nice snake, shame about the legs”. Trends in Ecology & Evolution 15 (12): 503-507.

7. Pyron RA, Burbrink FT, Wiens JJ (April 2013). “A phylogeny and revised classification of Squamata, including 4161 species of lizards and snakes”. BMC Evolutionary Biology.

8. David M. Martill; Helmut Tischlinger; Nicholas R. Longrich (2015). “A four-legged snake from the Early Cretaceous of Gondwana”. Science349 (6246): 416–419.

イベント告知

株式会社tayoでは、1/29日(土)に、誰でも気軽にVR空間でウイルス学研究者の話が聞けるイベントを開催予定です!

参加登録はこちらから

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。