宇宙でがんは治るのか!?〜未来の医療、「宇宙医学」の世界〜

編集部:緒方

初めまして🙋‍♀️tayo magazine編集部の緒方です!今回は私の友達の宮下君に”宇宙医学”をテーマで記事の執筆をお願いしちゃいました!
宮下君は京都大学で医学を学びながらも宇宙、深海…など多分野に関心を持つ変人で、JAMSTECのとある企画でしんかい6500に乗船した一人でもあります。

ヒトは宇宙でどうなるか

みなさんこんにちは!宮下です!

いきなりですが、これまで宇宙にに行ったヒトは何人いるでしょうか。NASAによると2020年8月の時点でなんと566人もの宇宙飛行士が宇宙に行ってます!(ちなみに、日本人はたった12人しか行ってないんです。)

こんなにも多くの宇宙飛行士が宇宙に行っているわけですが、「宇宙で大けがした!」であったり、「宇宙で喘息になった!」なんてニュースを耳にしたことがありますでしょうか。

なかなか無いですよね!

実際、宇宙飛行士は選りすぐりの超健康集団であって、過去に医学的トラブルによってミッションが中断した事例はたった3件しかありません。

では、宇宙に行っても我々の体に何も異変が生じないのかと言われると決してそんなことはありません。宇宙に長期滞在すると、骨が減少したり、筋肉が委縮したりすることはよく知られていますが、他にも様々な変化が人体に生じます。

もう少し詳しく見ていきましょう!

©JAXA

宇宙環境は地上と比べて具体的にどのような点が特殊なのでしょうか。

大雑把に、①微小重力、②高濃度の宇宙放射線、③閉鎖環境の3つが挙げられます。

このような特徴をもつ宇宙環境は人体に様々な影響を及ぼします(上記グラフ参照)。

骨の減少や筋の萎縮以外にも、顔がパンパンに膨らんだり(ムーンフェイス)、視力や認知力が低下したり、知覚が変化したりすることが報告されています。特に、視力の低下は帰還後もずっと治らない人がいるため、問題視されています。

このように宇宙における人体影響を列挙した限りだと、宇宙に行っても良くないことばかりではないかと思われるかもしれません。しかし、近年、特殊な宇宙環境を逆手にとって、難治の病の治そうという驚きの試みが為されています。

次章でその一端を紹介します!

無重力でがんが死滅する!!?


この章では、ドイツのオットー・フォン・ゲーリケ大学の研究チームが2019年に発表した論文”Apotosis Induction and Alteration of Cell Adherence in Human Lung Cancer Cells under Simulated Microgravity ”を紹介します!

特殊な装置による微小重力環境の再現

研究チームのCarlo Dietzらによると、模擬微小重力環境下では、肺がん細胞の細胞接着に変化が生じ、アポトーシス(細胞死の一種)する割合が上昇します。さらに、がん細胞におけるがん抑制遺伝子の発現が増加することもわかっています。すなわち、宇宙環境下では、肺がん細胞は細胞接着が変化することでSpheroidという特殊な形態を形成し、より高い確率で死ぬ可能性を示唆しているわけです。また、Spheroidを形成しない場合でも、暴露から24時間後にはがん細胞のアポトーシス率は有意に上昇し、がん抑制遺伝子(p53やRB1等)の発現も上昇しています。

Spheroid(球状の細胞集合体)

この実験はあくまで細胞実験であり、肺がん患者が宇宙に行った際に本当にがん細胞が死滅するのかどうかは定かではありません。ただし、この論文の実験結果からはその可能性も十分考えることができます。また、Spheroidを形成したがん細胞のアポトーシス率がなぜ高いのか追究することは、新薬の発見にもつながるかもしれません!新薬が開発されたらわざわざ宇宙に行く必要はありませんね笑。

余談ですが、がん分野を問わず細胞のメカセンシング(機械的刺激に対する生体反応)にまつわる研究は日本でも盛んに行われていて、筆者自身この分野における新薬の開発には期待を寄せている次第です。

他にも、シドニー工科大学のJoshua Chou率いる研究チームは、卵巣、乳がん、鼻がん、肺がんの細胞を模擬微小重力環境に暴露し、それらの80〜90%が24時間以内に死滅したと報告しています。さらに、彼らは現在、実際に宇宙で検証するべく国際宇宙ステーション(ISS)にがん細胞を生きたまま宇宙に輸送する計画を立てています。

手術や薬物療法 、 放射線治療を受けずとも宇宙に行けばがんが治る。もしそんな未来が本当にくるなら、あなたは宇宙に行きますか?

未来の”宇宙病院”

危険なイメージのある宇宙をむしろ治療の場として積極的に活用していく、それが宇宙病院構想です。

前章では、がんについて紹介しましたが、微小重力という特殊な環境は様々な医療用途が考えられます。例えば、微小重力環境は身体への負荷が少ないことから、リハビリテーションや終末医療にうってつけと言えます。寝たきりの患者や下半身不随の障害者も、微小重力環境では自由に移動できるという点で身体的・精神的苦痛が軽減されるでしょう。

NASA主導のアルテミス計画を皮切りに深宇宙の有人探査が勢いを増すなか、そう遠くない未来で宇宙空間や月面に医療施設が設置されるかもしれません。

あなたならどんな宇宙病院を設計しますか?

©フランス国立宇宙研究センター

参考資料

宇宙医学を学びたい方

宮下くん、ありがとうございました〜!

いかがでしたでしょうか!宮下君みたいに楽しみながら分野横断的に何かを学びたい方は是非大学院生募集プラットフォーム tayo.jp をご参照ください!きっとあなたの興味にあう研究室が見つかるはずです!
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