知られざる「モロッコ産贋化石」の世界

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化石の聖地・モロッコ

北アフリカの西側・スペインの対岸に位置するモロッコでは、三葉虫・アンモナイト・恐竜などなど、様々な化石が大量に産出することで世界的に有名で、沢山の重要な標本が発見され続けています。

近年話題になったモロッコでの発見として、スピノサウルス(Ibrahim et al, 2020)や、オルドビス紀の大型アノマロカリス類( Van Roy et al., 2015)などが挙げられます。また、身近なところでは、日本の博物館のミュージアムショップにならぶ三葉虫・アンモナイト・サメの歯などの化石の多くは、モロッコから輸入されたものです。読者のみなさんの中にも、恐竜展のお土産で購入したモロッコ産の化石をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

私は最近、調査のために化石の聖地・モロッコを訪れる機会がありました。今回は、その際に見かけた「贋化石」について語っていきたいと思います。

マラケシュの贋化石

マラケシュの贋化石(スティーブン・ジェイ・グールド著)。なお、この表紙の贋化石は、日本語訳の際に書かれたイメージ図で、実際のモロッコの贋化石とは大きく異なります。

古生物学に興味を持つものなら誰もが気になるモロッコですが、私が最初にモロッコに行きたいと思ったきっかけは、中学時代に読んだ、スティーブン・ジェイ・グールド(古生物学者/エッセイスト)のエッセイ「マラケシュの贋化石」でした。

このエッセイでグールドは、モロッコ随一の観光地・マラケシュで彼自身が購入した、トカゲとサソリの贋化石について語っています。このトカゲとサソリの贋化石は、通常化石としては残らない部分が姿丸まま残っていますが、実際には石膏で作った「化石」を適当な石に張り付けた贋化石です。特にトカゲの標本は、その緻密な造形から、本物のトカゲから型を取ったものであると、グールドは考察しています。

グールドは、これらの贋化石に、古生物学の世界で「ベリンガーの贋化石」として知られる18世紀の贋化石(Beringer, 1726)との類似性を見出し、考察を進めます(詳細は原著を読んでみてください。面白いですよ!)。

このエッセイは、私が古生物学や進化生物学に興味を持つきっかけになった、思い入れのある一冊です。特にこの「マラケシュの贋化石」のエピソードは最も印象的で、グールドの本に出てくるようなトカゲとサソリの贋化石を、グールドと同じようにマラケシュで購入することは、私にとって長年の夢でした。モロッコ調査が決まった際には、モロッコで調査するという夢と、マラケシュで贋化石を購入するという二つの夢を同時に叶えられそうなことに喜びました。

観光都市マラケシュ

屋台が並ぶ夜のジャマ・エル・フナ広場
広場の屋台で食べたエスカルゴ

「マラケシュの贋化石」のマラケシュは、アトラス山脈にほど近い内陸に位置しており、カサブランカ・フェズ・タンジェに続くモロッコ第四の都市になります。1000年近い長い歴史を持つ街であることから、モロッコ有数の観光都市としても人気です。広大なモロッコを移動する合間に、マラケシュで観光する時間を取ることができた私は、「マラケシュの贋化石」を探してマラケシュの旧市街に繰り出しました。

マラケシュ観光の目玉は、何といっても世界遺産にも登録されているジャマ・エル・フナ広場です。ジャマ・エル・フナ広場は、マラケシュ旧市街の中心にある広大な広場で、昼はヘビ使いなどの大道芸人や音楽家がパフォーマンスを行う一方、夜には郷土料理を振る舞う屋台が広場を埋め尽くし、巨大な野外レストランへと変化します。

今回の目的である贋化石は、このジャマ・エル・フナ広場から周りに網状に伸びるスーク(市場)にあるはずです。というのも、マラケシュでお土産品を買うなら、このスークがド定番であり、おそらくグールドもここで贋化石を購入したと思われます。マラケシュのスークには、革製品点・雑貨店・スパイス店・食料品店・料理店などがひしめき合います。

マラケシュのスーク

そして予想通り、これらの店に混じって、観光客向けの化石専門店もいくつか発見することができました。これらの化石専門店から、トカゲとサソリの贋化石を探しだすことができれば、私の長年の夢がかなうのです!

贋化石を探して

マラケシュの化石専門店

早速、化石専門店を巡り、売られている標本の数々をじっくり観察してみます。どの店でも、店員さんが熱心に化石の説明をしてくれるのですが、今回の私の目的はあくまで贋化石。そこで店員さんに、「贋化石はないか」と尋ねてみると、驚いた様子を見せた後、贋化石を一個ずつ丁寧に紹介してくれます。モロッコで化石を購入する際に、贋化石をつかまされるのが心配な場合には、逆に店員さんに「贋化石はないか」と聞いてみるのも手かもしれません。

肝心の売られている化石はどの店でもだいたい同じで、代表的なものを挙げると、アルニフ近郊産の三葉虫ノジュール、アガディール近郊産のアンモナイト、半分にカットされて磨かれたグルミマ近郊産のアンモナイト、そして贋化石でした。贋化石のなかでもよく見られたのが、各種の三葉虫と、グールドのエッセイにも出てきたサソリです。しかし残念なことに、トカゲの贋化石はどの店でも見つかりません。

面白いことに、同じサソリの贋化石でも、彩色や、本物の石に張り付けているか否かなどで、クオリティーに大きな差が見られます。トカゲの贋化石が手に入らないなら、せめて一番クオリティーの高いサソリの贋化石を買って帰ろう…と思いながら、化石店を巡り続けます。

ついに発見!

トカゲの贋化石を求めて5軒程度の化石店を回った後、最後に入った店は、特に風格のある古風な店構えをしていました。

例に漏れず、この店でも贋化石を探していると伝えたところ、店の棚の下などから沢山の贋サソリがでてきます。この店の贋サソリは特にクオリティーが高く喜んでいたところ、店員さんが「こんなものもあるよ」と言いながら店の奥の棚の化石の裏から出してくれたのが、なんとトカゲの偽化石!ほかの店で見つけることができなく、意気消沈していたところであったため、大興奮したことを覚えています。

マラケシュで発見したサソリとトカゲの贋化石

モロッコの観光地でお土産を買う際に必ず必要なのが、価格交渉。マラケシュのスークに並ぶ製品は、革製品から贋化石までほとんどのものに価格が明記されておらず、売り手と交渉する必要があります。想像に難くないように、最初に売り手は相場の倍以上の価格を吹っ掛けてきます。

やっとの思いで一つだけ見つけた贋トカゲですが、購入するには、価格交渉をこなさなければいけないのです。店員さんに、贋トカゲと贋サソリのセット価格を聞いてみたところ、最初は200DH(2400円程度)からスタートです。「偽物なのに高すぎるよ、50DHで」と抗議すると、「偽物だから作るのに人手が必要なんだよ」と正論が返ってきます。

しばらく交渉した結果、結局65DH(800円程度)で購入できました。高いのか安いのかさっぱりわかりませんが、長年の夢であることを考えれば、最初の価格で買わざるをえなかったとしても買っていたことでしょう。

贋トカゲはなぜレアか

私が発見するまで一苦労した贋トカゲですが、グールドのエッセイでは難なく購入したことが記述されています。また、この後、マラケシュ以外の街の化石店でも必ず注意して探していたにも関わらず、以降一度も贋トカゲを見かけることはありませんでした。不思議に思い、モロッコ人の知り合いに聞いてみたところ、「確かに昔はトカゲの贋化石を多く見かけたが、最近は全く見ない。製造していた人が亡くなってから長いのでは。」とのことでした。なるほど確かに、奇跡的に贋トカゲを発見したマラケシュの店は、モロッコで訪問した数ある化石店の中で最も古風な店構えで、商品には埃が積もっていました。その店の奥の棚の古い在庫の裏から出てきたのが例の贋トカゲです。運よく、数十年前の在庫が残っていた最後の一個を手にすることができたということだと思われます。

エルフード近郊の化石を扱う土産物店

みなさんも、もし今後モロッコに行く機会があれば、化石店の棚の奥を調べてみてはいかがでしょうか。絶滅を逃れた「生きた贋化石」とも言える(?)貴重な標本に出会うことができるかもしれません。

贋化石を観察してみる

このような経緯でなんとか入手した我が家の家宝・マラケシュの贋サソリと贋トカゲ。今回、3Dスキャナーを用いて、この二標本の3Dデータを作成してみました。

せっかくですので最後に、この二標本をしっかり観察してみましょう。今回のスキャンで得られた二つの標本の3Dデータは、Sketchfabで公開していますので、ぜひみなさんもグルグル回しながら観察してみてください。

まずは、贋サソリを見てみましょう。

明らかに作り物感があるこのサソリは、石膏でできており、本物の石に張り付けられています。石膏で作られているため、サソリの体のあちこちに気泡が確認されます(ちなみに、石膏で作られた贋化石は、今回の標本に限らず、気泡が入っていることが多いので、気泡の有無は贋化石を見分けるポイントの一つです)。

贋サソリの気泡の一部を赤矢印で図示。他にも沢山気泡があるので、3Dモデルを回しながら探してみてください。

作りは雑なものの、この贋サソリの足の本数は、実際のサソリの足の本数と合っており、作り手の観察眼が光っています。

次に、贋トカゲを見てみましょう。

雑な作りの贋サソリに対して、こちらトカゲは非常に精巧にできており、本物のトカゲから型を取っていることが見て取れます。こちらも、贋サソリ同様、石膏でできた贋化石を、本物の石に巧妙に張り付けることで作成されています。贋サソリ同様、こちらの標本にも沢山の気泡が見受けられます。

贋トカゲの気泡の一部を赤矢印で図示。他にも沢山気泡があるので、3Dモデルを回しながら探してみてください。

このトカゲは、モロッコに分布しているトゲオアガマ属(Uromastyx)の何らかの種類と思われます。なお、グールドの本に出てくる贋トカゲは、その写真から、トゲオアガマではなく、おそらくヤモリの仲間を型にしたものだと思われます(マラケシュの贋化石 上 p. 29)。

贋トカゲの標本は、日本に持って帰った後、石膏部分と本物の石部分の間にヒビが入ってしまいました。異物を張り合わせているわけですので、モロッコと比べて湿度が高い日本の環境にさらされるとヒビが入ってしまうのは、どうしようもないことでしょう。おかげで、石膏と石の境界がしっかり分かるようになりました。

石膏製の贋化石部分と、本物の石の間に生じたヒビ。慌てて瞬間接着剤で補強しました。

なお、今回作成した贋化石の3Dモデルは、Sketchfabからダウンロードすることができます。せっかくですので、3Dプリンタで印刷したり、VRで見てみたり、いろいろと遊んでいただけると嬉しいです。

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    みかみん from ゆるふわ生物学チャンネル
    化石と音楽とエスニック料理が好きな大学院生。専門は古生物学・数理生物学・進化生物学・生命情報科学など。生物学系youtuberグループ、ゆるふわ生物学チャンネルでゲーム実況したりもする。